特集3 人的資本経営の推進

先端素材のグローバルリーダー企業として社会の発展と革新に貢献していくためには、人的資本の向上が欠かせません。当社の事業領域である金属材料分野、特に半導体材料や情報通信材料などはグローバルな競争環境の中でめまぐるしく変化します。それに対応するため、多様なバックグラウンドを持つ人材が能力を最大限発揮し、自ら考え変化していくことが必要だと考えます。

JX金属グループの考え方

当社は、2019年に長期ビジョンを発表して以降、技術立脚型企業への転身に向け、さまざまな施策を実行しています。2023~2025年度中期経営計画において、技術立脚型企業への転身に必要不可欠な成長投資を着実に実行しつつ、ESG活動を通じた社会的価値の創出を図り、企業価値最大化の実現へ向けた道筋をつけていくことを方針として各種施策を推進することとしています。そのためには「人」の力が不可欠であり、「人」の意欲・能力を最大限引き出すことが経営上の重要課題と考えます。
互いを尊重し合い切磋琢磨できる企業風土のもと、社員一人ひとりの長期ビジョン実現に向けた創意工夫やアイデアを尊重し、人の成長を会社の持続的な成長につなげていきます。また、当社のDNAを大切にしつつ、付加価値を創出する人材の確保・育成に努め、多様な人材が能力を最大限発揮できる組織体制の構築等を、これまで以上に積極的に進めていきます。

小松﨑 寛

JX金属(株)
常務執行役員

小松﨑 寛

多様な価値観の醸成

当社では、人事部採用担当の組織強化や採用チャネルの多様化により、幅広く優秀な人材を採用しています。新卒採用では、高専生を含めた技術系人材、留学経験を有する国内外のグローバル人材を積極採用しています。キャリア採用も拡大しており、直近3年の採用実績において、新卒とキャリアの割合はほぼ5:5となっています。大学卒・高専・キャリアとも採用人数は増加しており、質・量・多様性を確保しています。これにより、新たな知見や技術、アイデアなどを積極的に共有しようとする闊達な企業風土の醸成につながっています。

採用実績の推移(当社)
技術系人材の採用

当社では、技術立脚型企業への転身に向けた各種施策の確実な実行に向け、競争力の根源となる技術開発力、生産現場力をさらに高めていくため、技術系人材を積極採用しています。

新卒採用

  • 大学(院)時の専攻を金属に限らず、幅広い学部から当社の求める志向と能力を持った人材を採用
  • 学校推薦ではない、自由応募者の採用拡大
  • 高専生の採用拡大

キャリア採用

  • 新規事業企画や技術開発などのポジションにて、当社にない分野の技術的知見を持つ人材を採用
  • 基幹職以上の重要ポジションでの採用
  • 多様な業界出身(自動車/電機/化学/大学etc.)の人材を採用

人材育成の強化

人材育成方針

個に応じた自律・自発的な成長のための機会を提供

  • 期待する人材像に必要とされるスキル教育など一律の教育を実施する一方、社員一人ひとりの個(役割期待・力量・志向・希望するキャリア等)に応じた柔軟な教育機会を提供し、社員の自律的・自発的な成長を促す。

実践を重視した人材育成

  • 業務経験を育成の中心に据え、評価や教育等、総合的な人事施策により育成する。特に「異なる環境」における「実践型」の育成を推進することで、広い視野やタフな精神力、自ら考え行動するマインドを育てる。

多様性を受容しチャレンジを奨励する風土での人材育成

  • 「期待する人材像」を育めるような、多様性を受容しチャレンジを奨励する管理職層の育成や職場風土を醸成する。

継続的な成長を支えるターゲット人材の計画的な育成

  • 経営幹部候補人材、グローバルな事業運営や新規事業等を担える人材を計画的に育成(選抜・配置・教育)する。また、スペシャリストの教育機会も充実させることで、技術立脚を支える人材を育成する。
  • 管理職層や現場リーダーの教育を充実させ、現場対応能力を強化する。
ターゲット人材:個別に育成をすべき特定の人材
新しい教育体系

これまでの当社の人材育成は、新卒社員の受講を前提とした階層別教育とOJTが教育体系の中心でした。しかし、現在はキャリア採用での入社が年々増えており、さまざまなバックグラウンドを持つ社員が活躍しています。また、基幹職登用の早期化や職種を超えた異動などキャリアパスも多様化しています。そのような状況を考慮し、画一的かつ受動的な教育体系から柔軟かつ能動的な教育体系へ見直しを行いました。
加えて、技術立脚型企業へ転身し、グローバルで既存事業の拡大や新規事業創出を進めていくにあたっては、事業の舵取りができる経営幹部候補人材や海外事業展開を担えるグローバル人材、専門的な知見で会社を牽引するスペシャリスト、現場の競争力向上を担う人材の育成も極めて重要な課題です。今回、これらの人材に対応する教育も整備し、選抜・育成を行っていくこととしています。

クリックして拡大

各種施策
若手向け研修

基幹職早期登用を見据えて従来よりも育成スピードを速め、入社3年目までに重点的に研修を行い、当社のDNAを取り入れながら自律自走し、チャレンジを行うための基礎力とマインドの獲得を目指しています。その中で、入社半年後にはフォローアップ研修を行い、入社してからの自分自身を振り返り、現状と期待される役割についての認識を高めるとともに、段取り力の習得を通して前向きにチャレンジできるようフォローしています。また、リーダー層には答えのない問題を解決するための力を養う研修を実施し、基幹職になる前の段階から全社視点的思考の醸成も行っています。

基幹職向け研修

基幹職人事制度改定に伴い、マネジメント力向上や経営マインド、スキルを身に付けることを目的とした基幹職向けの研修を充実化させました。新任基幹職研修では、副社長とのパネルディスカッションを実施して経営層の考えや具体的な経験に直接触れることで、基幹職としての姿勢や全社視点での考え方を理解することを目指しています。

グローバル人材育成
海外研修

若手層を対象に海外研修を行っています。語学や異文化理解、関係構築、グローバルビジネス意識の醸成だけでなく、異なる環境に飛び込むタフさや自信をつけ、さまざまなスキル・知識・マインドを養うことを目的としています。

国外留学

経営人材育成を目的として対象者を選抜し、学位取得が可能な海外大学院またはMBA取得が可能なビジネススクールへ派遣して、専門性の強化やマネジメント能力の強化を図っています。

語学オンライン総合学習

グローバルな事業運営を担う人材育成の一環として、語学オンライン総合学習システム「goFLUENT」を2023年度より導入しています。英語や中国語、ドイツ語などのeラーニング、オンラインによるグローバル会話クラス、能力判定テストを組み合わせて実践的に語学学習を行うことができます。

現場管理者向け研修

重要な課題である現場力の向上のため、製造現場の要となる係長職・主任職を対象に研修を行い、現場の管理者として必要な能力開発・知識の獲得を図っています。当社の経営の現状と課題の理解を深めながら、チームで課題に向かうためのリーダーシップ、部下育成・フォローするためのスキルやマインドを醸成しています。

キャリア教育

当社で何を成し遂げたいか、自身のこれからの役割は何か、どのようなスキルを身に付けるべきか等、今後のライフプランとキャリアを自律的に考える機会として年代別のキャリア教育を導入しました。キャリアカウンセラーによる講義やライフイベントと仕事の両立のための社内制度を紹介し、将来への不安を取り除きながら自律的なキャリア構築を支援していきます。

自己啓発支援
セルフ・イノベーション・サポートとオンライン動画学習サービス

社員自らが希望する外部研修プログラムを申請して受講し、プログラム終了時に会社が費用の半額(上限50万円/1プログラム)を補助する「セルフ・イノベーション・サポート」の制度を用意しています。
また、さらに学びやすい環境を整えるため、場所や時間に制約されることなく学習が可能なオンライン動画学習サービス「Udemy Business」を2023年度より導入しています。さまざまなコースや教材にアクセスでき、多様な知識やスキルを身に付ける機会が増えています。

新入社員研修の様子

新任基幹職研修の様子

VOICE
国外留学制度利用者の声

国外留学制度の社費派遣生として、University of Michigan, Stephen M. Ross School of BusinessにMBA留学しました。私が通ったGlobal MBAというプログラムは、本来2年間のMBAコースを14ヵ月に圧縮した短期集中型のコースです。未経験の領域について文化・価値観の異なる人々とディスカッションする機会が何度もあり、そのたびに新しい視点を得る毎日でした。
妻と3人の子どもと一緒に渡米したのですが、帰国時には「帰りたくない」と話す子どもを説得しなければならないほど現地になじんでくれて、家族としても素晴らしい経験をすることができました。
現在は兼務先である上場準備室の構造改革チームの一員として、当社の構造改革を進めています。MBAでの経験から学んだリーダーシップを発揮できるよう精一杯励んでいます。

押川 智信

JX金属(株)
人事部 兼 上場準備室

押川 智信

能力を最大限発揮できる環境の整備

人事諸制度の見直し

当社では、人事諸制度の改定を2021年度より段階的に進めてきました。社員一人ひとりが自分自身の役割を意識し、互いに尊重・刺激し合い、切磋琢磨しながらよりチャレンジングに課題に取り組める環境の整備を通して、技術立脚型企業への転身を目指してまいります。

基幹職人事制度改定

職種や部署、等級に拘らず、長期・全社目線でマネジメントを担える優秀な人材を育成・抜擢し、経営の中枢を担えるよう制度改定を行いました。
具体的には、部下を持つライン長を管理職として区分を明確化したほか、職責の大きさに基づく処遇の徹底、基幹職登用の早期化などの施策を実行しました。

一般職人事制度改定

生産現場を支える人材を適切に評価・処遇することによる現場競争力の強化、当社が茨城県で進めている事業拡大に対応するための人材の確保・育成、シニアをはじめとした多様な人材が活躍できる仕組みづくりなどのために制度改定を実行しました。具体的な施策は以下の通りです。

1.「総合職」と「業務職」のコース区分の明確化

各コースの役割を明らかにした上で、それに応じた適切な評価および処遇ができる仕組みとしました。また、業務職から総合職・地域総合職へのコース転換制度を設け、本人の挑戦意欲に応じて「業務職」から「総合職・地域総合職」にチャレンジできる仕組みも整えることで、より自律的なキャリア形成に向けた支援や変革に挑戦する企業文化の醸成を図っていきます。

※1
原則として転居を伴う異動は無し
※2
原則として転居を伴う県外への異動は行わない
2.「地域総合職」の新設

大幅な人員増が見込まれる茨城県エリアを対象に、当社初となる「地域総合職」コースを設置しました。本コースでは勤務場所を茨城県内とし、原則として転居を伴う異動は行いません。IターンやUターンを含め、茨城県内での採用や事業運営の強化につなげていきます。

3. 定年延長の実施

生産現場の安定操業や技能伝承などの観点から定年年齢を60歳から65歳に引き上げ、処遇についても60歳時点の給与水準を維持することとしました。一方で、若手・中堅層にマネジメント機会を付与し、組織を活性化するという観点から、60歳を上限とする役職定年制度を導入しました。

Column

障がい者雇用・定着の推進

当社は障がい者の「社会に出て活躍したい」という思いに応え、雇用・定着に向けた取り組みを推進しています。本社では2020年9月より指導員育成や作業環境整備等に取り組み、2022年1月には精神障がい者(知的・発達)メンバーで構成した「チアフルサポート室」を立ち上げました。2023年4月にはJX金属コーポレートサービス(株)を特例子会社化するとともにチアフルサポート室を移管し、労働環境の整備を加速させています。また、グループ全体での理解を推進すべく、就労職場の見学会や全体会議を開催し、意識統一を図っています。

JX金属100%子会社

チアフルサポート室(通称:チアサポ)

2021~2022年度に精神障がい者6名を採用し、本社内の郵便仕分け・配送、備品・飲料補充等の業務を行ってきました。2023年4月には特別支援学校より4名の新入社員を迎え、メンバーの増員にあわせて業務も拡大し、名刺作成、紙資料の電子化、各部の庶事業務の受注を開始しました。今後は2024年4月を目途にチアサポ清掃チームを立ち上げ、外部に委託している本社オフィスの清掃内製化を予定しています。
このような取り組みを永続的に行っていくには、社内の理解が必要不可欠です。本社では転入者や新規採用者全員に対して、チアサポメンバー自身による自己紹介、業務説明を実施しています。これらの取り組みを通して、チアサポメンバーの活躍が社員に浸透し、多くの業務依頼が寄せられ始めています。チアサポメンバーの明るく大きな声の挨拶は、社内に元気と活力を届けてくれています。

地域貢献活動
東京都港区障害者福祉課、港区教育委員会と連携し、特別支援学校の先生と保護者約1万人を対象に、チアサポメンバーが就職に向けて頑張ってきたこと等を発表しました。2023年4月には特別支援学校・永福学園の1年生全員の職場見学を受け入れ、業務内容の説明や仕事のやりがいなどを発表しました。

港区での発表会

永福学園の職場見学会

農福連携事業「内原ファーム」

JX金属コーポレートサービス(株)の一組織として茨城県水戸市に農福連携事業「内原ファーム」を設置しました。農業を障がい者の方々とともに行うことで社会福祉に貢献し、農業を社員教育や社内イベントに活用することで会社福利に役立てていこうというものです。当ファームでは日本農業実践学園の協力を得て、同学園内に農地約7,000m²を借用し、障がい者を採用して農業を行っています。収穫した野菜は、社内食堂での利用、各種イベントへの提供、直売所への販売等で活用しています。また、内原ファームを社内研修施設として活用し、障がい者に対する一層の理解を図っていきます。

農地では根菜をメインに栽培

障がい者メンバーと指導員

近隣直売所への出荷

このページのPDFをダウンロード 
TOP