社外取締役座談会

2023年7月31日、JX金属グループのガバナンスへの評価や、今後の成長に向けての課題、サステナビリティへの取り組みなどを語り合っていただく座談会を実施しました。

プロフィール

写真左から

社外取締役(監査等委員) 佐久間 総一郎

1978年、新日本製鐵株式会社(現日本製鉄株式会社)入社。同社代表取締役副社長等を歴任。現在、日鉄ソリューションズ株式会社顧問に加え、内閣府公益認定等委員会委員長、一般社団法人日本国際紛争解決センター理事長、一般財団法人地球産業文化研究所理事長、OECD-BIACの国際投資・企業行動委員会副委員長等を務めている。2022年6月より当社社外取締役。

社外取締役 伊藤 元重

1979年、米ロチェスター大学大学院で経済学博士号取得。東京大学大学院経済学研究科教授、総合研究開発機構理事長、学習院大学国際社会科学部教授等を経て、2016年6月より東京大学名誉教授。2013年より6年間にわたり経済財政諮問会議の議員を務める。2022年4月より当社社外取締役。

社外取締役 所 千晴

2004年、早稲田大学理工学部助手に就任。2015年、早稲田大学理工学術院教授(現任)。2016年、東京大学生産技術研究所特任教授(現任)。2021年、東京大学大学院工学系研究科教授(現任)。2021年4月より当社社外取締役。2022年9月、早稲田大学高等研究所副所長、カーボンニュートラル社会研究教育センター副所長に就任(現任)。

JX金属株式会社 代表取締役会長 村山 誠一

社外取締役(監査等委員) 川口 里香

1997年、弁護士登録。第一東京弁護士会労働法制委員会委員(現任)。第一東京弁護士会副会長、関東弁護士会連合会常務理事等を歴任。2021年より東京家庭裁判所家事調停委員、第一東京弁護士会男女共同参画推進本部副本部長、日本弁護士連合会男女共同参画推進本部委員、公益財団法人日本フィランソロピー協会監事(現任)。2023年6月より当社社外取締役。

社外取締役(監査等委員) 二宮 雅也

1974年、日本火災海上保険株式会社入社。日本興亜損害保険株式会社代表取締役社長社長執行役員、損保ジャパン日本興亜ホールディングス株式会社(現SOMPOホールディングス株式会社)代表取締役会長等を歴任。2018年、一般財団法人日本民間公益活動連携機構理事長(現任)。2022年、SOMPOホールディングス株式会社特別顧問(現任)。2023年6月より当社社外取締役。

社外取締役としての役割、ガバナンス体制への評価について

村山
当社は2023年5月に株式上場準備の開始を公表し、上場企業にふさわしいガバナンス体制の強化を進めています。社外取締役の皆様には、それぞれの経験や専門性を踏まえた提言を期待しています。
二宮
私は新任の立場ですが、企業経営者としてのリスク管理やコンプライアンス、中長期の成長シナリオに関する国内外への発信の在り方などについて、質問や提言の形で遠慮なく発信していきたいと思っています。加えて、生物多様性や人権に対する取り組みなどのサステナビリティ分野においても、これまでの経験をぜひお伝えできればと思います。
川口
私は弁護士としての知見はもちろん、社外監査役や人事・労務関連での経験を踏まえて、強固なガバナンス体制を築いていくためのお手伝いができればと思っています。また、ライフワークとして男女共同参画推進に携わっていますので、当社においても真のダイバーシティの実現、従業員の働きやすさの点でも貢献していきたいです。伊藤:外部からの目線という意味では、私は研究者として経済がどう動いているのかという視点から提言できればと思います。最近は政府審議会においてもSDGsのようなテーマについて議論が進んでいますので、政策と企業との結び付き、官民連携の在り方などについても助言ができるのではないでしょうか。
佐久間
私は同じ金属産業の出身で、鉄と非鉄の違いはあれ、経営の課題に多くの共通点があると感じています。その上で、政府審議会や経団連でガバナンスの制度づくりに携わってきた経験を踏まえると、当社は監査等委員会設置会社の体制、且つ、常勤監査等委員を置いているということで、IPO(新規株式公開)に向けてしっかりとした枠組みが既にできあがっていると見ています。
当社が高い技術力を持ち、将来を見据えて開発をされていることは、私のような技術を専門とする人間であればよく知っていることではあるのですが、取締役会に入り、その状況がエビデンスをもってしっかりと認識できました。この素晴らしい技術について正しく評価されるように、助言差し上げるということが私の役割の一つかなと思っています。
伊藤
社会が急速に変化している中で、その変化に対してどのように追従していくのか、あるいは変化を先取りしていくのか、そうした方向付けや仕掛けを社内でしっかりと議論していくことが非常に重要です。私たち社外取締役の立場としても、そこに対して積極的に参画していきたいと考えています。
佐久間
当社は伝統的な企業の割にフラットな意識、オープンな企業風土があると思います。それは、事業構造が半導体材料や情報通信材料という先端的なものに変化してきたという影響があるのかもしれません。そうした会社全体の空気は取締役会にも反映されていて、非常に議論がしやすい雰囲気になっていると感じます。
村山
今年度、二宮様、川口様を加えた5名の社外取締役を迎え、新たな体制でスタートを切ることができました。皆様の幅広い知見を活かして取締役の運営にあたっていただき、ガバナンス体制をしっかりと強化していきながら前進したいと考えています。

IPOに向けての課題と今後の成長戦略について

伊藤
当社は今、半導体材料、情報通信材料といった新しい分野で競争力の高い製品を持っています。脱炭素や資源循環への注目が高まっている中で、市場での重要なキーパーソンになっていると思います。IPOに向けては、長期の戦略や成長投資を社外に対してしっかりと発信していくことがまずは重要になるでしょう。同時に、先端素材で強みを持っているバックグラウンドには、長い歴史で培ってきた技術や経験の蓄積があるわけですから、その価値をどのように再認識していくか、そのあたりもスピード感をもって進めていくことが大切です。
佐久間
それに加えて、上場を控えたということであれば、確実な成長ということは最も実現しなければならない課題です。足元の営業利益1,000億円レベルから2040年には2,500億円を目指す、こうした目標も既にビジョンとして掲げられていますので、そのためにはやはり今の製品構成にはない、第3の柱をしっかりと立ち上げることが必要になるでしょう。
二宮
2040年にビジョンを設定されたっていうところが非常にいいですよね。2030年がSDGs、2050年が脱炭素のターゲットイヤーになっていますので、中間である2040年には、取り組みの積み重ねも当然できていると思いますし、何に注力しなければならないのかもより明確になっている頃だろうと思います。地球規模の課題解決のためのトランスフォーメーションに欠かせない先端素材へのニーズに対して、技術立脚型企業という位置付けで応えていく、そのことによって当社の成長も導かれると思います。
おっしゃる通り、技術立脚型というところが当社の基礎の基礎であると思います。どんなニーズが出てきても応用できていくような基礎力を醸成していくことが将来の成長に対して重要です。環境問題をはじめ、社会からの要請は想像以上のスピードで変化しています。これは一つのチャンスですが、見誤るとリスクでもあるので、その機運を捉え損ねないことも大事だと思います。
二宮
当社の存在意義や将来への期待について正しく理解をしていただくためには、機関投資家はもちろんですが、NPOや市民社会の理解も必要なんだろうなと感じます。双方に正しい理解と期待を持ってもらい、株主として、理解者として支えていただくということが大事なんだろうなと思いますね。
川口
市民社会の理解を得るためには市民社会との対話や連携が一つのアプローチとなりますが、日本企業が弱くなってきている課題でもありますね。当社としても公益財団法人やNPOへのアクセスを増やして、従業員の皆さんの能力や技術などを、ダイレクトにニーズのあるところに提供できるような、また「社会の役に立ちたい」という声に応えるような取り組みがもっとあってもいいのかなと思います。
私は大学教員という立場から、当社の方々と一緒に小中学生のための実験教室などに定期的に参加させていただいています。最近では、地元サッカークラブへの協賛など地域活性化に取り組まれている様子も拝見させていただきました。企業として、地域の方々や社員の方々のウェルビーイングにつながるような活動を続けていくことが、当社の価値をより一層深化させていく、並びに市民社会からの信頼を獲得していく上で重要であると考えます。
村山
当社は2019年に初めて長期ビジョンを策定して、技術立脚型企業として先端素材で社会に貢献していくという姿を描きました。ご指摘いただいた通り、我々は変化の激しい世の中にあってチャレンジを日常的に生み出していけるような企業体質に変えていかなくてはならないという思いがあります。その変革が実現できて初めて、成長性が語られる企業になっていけるのではないかと思っています。

ESG・サステナビリティについて

当社は2022年度にサステナブルカッパー・ビジョンを打ち出しましたが、素材のリサイクルということを考えると、まだまだ世の中では銅、鉄、プラスチックと全部が一緒くたに考えられているふしがあります。素材にはそれぞれのサステナビリティの方向性が異なりますので、それを分かりやすく国内外に向けて発信していくことが重要です。銅という素材の在り方がどういう方向だとサステナブルなのか、当社がどういった役割を果たせるのか、それを示すものがサステナブルカッパー・ビジョンになりますので、ビジョンを通じてしっかりとアピールしていくべきです。
二宮
日本で半分以上を占めるサーマルリサイクルは「リサイクルと言ってもCO2を大量に排出しているじゃないか」って言われ方をしてきたと思いますが、当社のグリーンハイブリッド製錬では、CO2が大幅に抑制されているということを知って驚きました。また、スコープ1、2だけではなくスコープ3の数値についても把握して精緻化されているということを聞き、技術的に随分深く取り組んでおられるなという印象を受けました。
佐久間
銅は同じ金属産業でも、鉄やアルミとは全く立ち位置が違って、大変優位なポジションにあると思います。それには3つの観点があって、その1はGXやDXを実現するために、導電率の高い銅が主役の時代になるということ。2つめは、二宮さんがおっしゃったように、製錬が自溶炉ということで化石燃料が基本的に要らないということ。 3つめは、都市鉱山の活用が十分経済的に成り立ち得るということ。これらを踏まえたサステナブルカッパー・ビジョンは合理性があって素晴らしいのですが、やはり世の中にどれほど浸透しているかという点では、もっと努力する必要があるだろうなと思います。
当社では、昨年から銅の利用、生産に関わるさまざまな業界、企業等と対話を進めてきました。サステナブルカッパー・ビジョンで示す考え方、今後進めていく施策について、対話した方々にはとても好意的に受け止められていると聞いています。そして、そのうち複数の企業や大学と共同で資源循環や脱炭素を進めていくパートナーシップを構築するに至りました。メディアを通じてだけでなく、こうした直接的な対話も継続しながら、世の中に広く浸透させることが重要だと思います。
伊藤
当社に限らず幾つかの企業を見ていると、持続可能性という重要な論点に対して皆、問いを立てるのですが、業種の特徴だとかその企業の歴史によって全く違ったものになります。それは悪いことではなくて、むしろその違いを発信できるということが、本当に地に足の着いたものであると言えます。当社は銅を扱う企業として、どういうことに力点を置いていったら持続可能性を実現できるのか、自分たちがどういったバリューを重要視していくのか、そうしたことを社員一人ひとりが日常でしっかりと考え悩むこと、そうしたことが重要だと思います。
二宮
社員の成長なくして企業の成長なしということは私もずっと考えてきました。職種、分野が違う中で誰もが均等に学びの機会を享受できる環境っていうのはやはり大事だと思います。村山会長が企業体質を変えていくとおっしゃっていましたが、そのためには組織の縦割りを排除して、横串を刺して理解をするということが大事だろうと思います。そういった意味で、社員・役員が集う場所、例えば、オンラインの企業内大学など効果があるのではないでしょうか。
川口
資源・製錬といった歴史的な縦割りのセクションで続いてきたところで、先日ようやく、セクションごとの大きなキーパーソンの異動が始まったところだと伺っています。そういった意味では、これからどのように人材戦略を立てていくのか、今まさに試行錯誤の時期だとは思いますが、畑違いの人たちをどんどん社内で交流・異動させて新しい発想を取り入れたりすることも、変化に対しての助力になるのかなと思います。
佐久間
人的資本というところについては、日本の伝統的な企業の中では気を配ってきた会社であると見ています。ただ、十分かといえばそうではないでしょう。一般的には、人を集めるためには高い報酬を出すのが一番だと思いますが、ESG・サステナビリティへの取り組みも、企業評価の重要な要素として学生や中途採用の方にとって魅力の一つとなっているはずで、選ばれる企業となるべくこれからもしっかりと取り組んでいただきたいと思います。
伊藤
今の学生や卒業生の若い人たちと話すと、皆さん非常に転職思考が早いですね。なぜ転職したいのかというと、別に会社を変わりたいわけじゃなくて、自分の可能性を広げていきたいという思いがあります。しっかりと人を引き留めながら優秀な人に来てもらうためには、単に会社の組織を守るということだけでなく、人の成長の仕方みたいなところを真剣に考える必要があるのかもしれませんね。
川口
今後の成長に欠かせないのが人材の力ですよね。今は人財側が会社を選んでいく時代になってきています。当社は福利厚生や就労環境は整っていると思いますが、一歩進んで、人材から選ばれる会社になるというところを考えていかないといけません。そうしないと、有価証券報告書における人的資本の情報開示なども、魂が入ったものにならないと思います。ダイバーシティの観点から言うと、当社でもコーポレート職では十分女性の活躍は進んでいると思いますが、技術職ではまだまだ少ないという現実があります。理系の女性たちが「JX金属に入ったら自分のキャリアやライフプランも描けるし、技術職としてずっと勤めていける」というように思える会社にできたら、すごく大きなパワーになると思います。
女子学生をはじめ人材の獲得については、当社の価値・社会貢献の部分をアピールしていくことも大事ですが、同時に相手のニーズを理解する、双方向のコミュニケーション能力が必要だと思っています。そして、もっと先進的になるためには、相手の価値観が変容していくように訴え掛けていくところまでいかないと、なかなか難しいのかなと思います。
村山
社外への発信という点で多くのご指摘をいただきました。サステナブルカッパー・ビジョンの例で見ると、業界の中にいる我々は当たり前な感覚で捉えてしまって、アピールがしっかりとできていないという反省があります。今後も地道な活動にはなりますけれども、さまざまなステークホルダーを巻き込みながら広げていきたいと思っています。

JX金属グループに期待すること

佐久間
当社はカーボンニュートラルと経済の両立、これをスムーズにできるポテンシャルを持つ会社だと思いますので、それをぜひ実現して企業価値につなげていきたいと思います。もう一つ、当社は約40万トンの銅素材をこの日本で造っているということで、サプライチェーンにおいて非常に重要なピースを占めています。日本の経済安全保障の一角を担っていく企業としても期待をしています。
伊藤
サプライチェーンというのは重要なキーワードですね。産業構造全体で見た時に、いわゆる素材や中間材を持っている価値というのが非常に高まってきています。かつては裏方に見えた分野が、実は産業だとか経済の命運を期するところがあって、当社が扱っている製品はその象徴的なものだろうと思います。一方そうなってくると、より良いものをより安くという従来型のバリューだけで発展を望むことは難しい。例えばサステナビリティのような多様な価値を創出できるなどのバリューが期待されます。リスクが大きな世界でもありますが、あえてそのリスクに立ち向かいながら、新しいことにチャレンジしていただきたいと思います。
川口
当社が技術立脚型企業である裏側には、今までいろんなチャレンジをしてきて、そこには当然失敗もあったと思いますが、失敗が許されるからこそいろんなチャレンジができてきたという歴史でもあると思います。株式上場ということになると、ある意味で自重してしまう部分もあると思いますが、そうした精神は上場を目指すにあたっても引き継いでいただいて、社員の皆さんが生き生きと働けるような企業であり続けてほしいなと思います。
二宮
私は事業に関するレクチャーを受ける中で、休廃止鉱山への取り組みが印象に残っています。休廃止鉱山というと、コストが継続的に支出されて正を生まない負の遺産という、そんな理解でいたんですけれども、そういう理解をしていると過去に対するリスペクトが無くなるんですね。当社では「ポジティブレガシー」という呼び方をしていて、過去の自社の取り組みをリスペクトしながら現在の価値を追求している、そうした姿勢に感銘を受けました。今、環境問題というと、気候変動の方に目が行って、生物多様性の対応というのは遅れがちではありますが、ポジティブレガシーを活用して例えばグリーンインフラに変えていく、こういった取り組みにも期待しています。
素材産業の果たす役割に対して社会からの要請は非常に高まっていて、これは一つの大きなチャンスだと感じています。当社は素材産業のリーディングカンパニーとして、どんどん表に出ていっていただきたいなと思っています。表に出ていくということは、思わぬ角度からさまざまな指摘を受けるという怖さもありますけれども、やはり今はそれよりもさらにチャンスだと捉えて一歩表に出て、グローバルに影響力のある企業になっていただきたいなと思います。
村山
本日は貴重なご意見をありがとうございました。常日頃、取締役会の運営にあたっては、皆様にとにかく忌憚のないお話をしていただくことをポリシーとしていますし、それが取締役会の運営にとっては最大の効果だと思っています。皆様、今後ともよろしくお願いいたします。
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