JX金属(株)
社外取締役
所 千晴
[プロフィール]
2004年、早稲田大学理工学部助手に就任。早稲田大学理工学術院専任講師、准教授を経て、2015年より早稲田大学理工学術院教授(現任)。2016年、東京大学生産技術研究所特任教授(現任)。2021年4月、東京大学大学院工学系研究科教授(現任)。2021年4月より当社社外取締役。専攻分野は資源処理工学、環境浄化工学。
私は資源工学が専門で、JX金属とは、学生時代の閉山直前の豊羽鉱山への訪問をはじめ、その後の鉱山廃水処理やリサイクル等の研究などで一緒にさまざまな活動をしてきました。資源確保、資源循環の問題は社会課題として重要なフェーズに差し掛かっていますので、まずは専門の立場からお役に立てればと考えています。そして、私は大学というニュートラルな立場にいますので、経営に対しても中立的な視点の意見も出せるように心がけていきます。
また、工学分野は女性の研究員が非常に稀ですので、マイノリティの立場を長く経験してきました。社外取締役として、ダイバーシティの視点からも経験を踏まえた発言をしていきたいと考えています。
ダイバーシティの推進には組織内部に存在するアンコンシャス・バイアス(無意識の偏見)が障害となっています。環境変化に強い組織をつくるためには、このようなバイアスをできる限り中和し、多様な人材が自分らしさを発揮できる職場をつくり、人材多様性を組織の力につなげていくことが重要だと思っています。私自身は2021年4月から取締役会に参加していますが、予想していた以上に発言しやすく、闊達に議論を行える場が実現できていると感じました。
欧米に比べて、日本企業はESG経営について周回遅れという感がある中、非鉄金属業界の先頭を切ってESG経営に舵を切ったことは高く評価できると思います。私が2016年からお手伝いをしている東大への寄付講座でも、長期的な視野に立った社会全体へのアウトリーチがミッションとなっていますし、JX金属にはもともと社会に対する広い貢献を大切にされる意識があったのだと思います。
またJX金属は、金属資源の安定供給と先端的な機能性材料の技術革新を通した社会環境への貢献という使命も担っています。例えば、バッテリーを普及させて電力をスマートに使いたい、あるいは、再生可能エネルギーを増やしたいとなれば、電気を通しやすい銅を利用した高効率な箔や線などの材料が不可欠です。さらに、金属はリサイクルができますから、JX金属の技術によって繰り返し使えるようにして、限りある資源を守っていかなければなりません。つまり、事業の根本が社会環境への貢献に大きく関わっていますから、ESG経営へのシフトは行うべくして行われたことだと言えます。
JX金属が社会の脱炭素に向けて果たす役割は非常に大きいと思います。そうした中で、2030年度自社CO₂総排出量50%削減(2018年度比)という、非常に思い切った目標を掲げました。このような高い目標は、これまでの延長にある取り組みを積み上げるだけでは不可能で、非連続なイノベーションがなければ達成はできないでしょう。そして、そのような社会的イノベーションを起こすには、一企業の力だけでは難しいと思います。JX金属は今こそ築き上げてきた技術力と信頼を基盤に、サプライヤーやお客様、大学、地域などを丁寧につないだネットワークを形成し、その中心的立場を担うべきだと考えます。
「先端素材で社会の発展と革新に貢献するグローバル企業を目指す」ことを長期ビジョンとして掲げていますが、これを実現する上でも、世界のステークホルダーとのネットワークにより信頼の循環をつくることは非常に重要です。社会基盤の根底を変えていくイノベーションを成し遂げてこのビジョンを実現し、社会になくてはならない企業であり続けていただきたいと期待しています。