JX金属(株)
社外取締役
伊藤 元重
[プロフィール]
1951年静岡県出身。1974年東京大学経済学部卒業。1979年米ロチェスター大学大学院で経済学博士号取得。専門は国際経済学。東京大学大学院教授を経て2016年4月より学習院大学国際社会科学部教授、6月より東京大学名誉教授。2013年より6年間にわたり経済財政諮問会議の議員を務める。2022年4月より当社社外取締役。
JX金属の取締役会は、非上場でありながらコーポレートガバナンス・コードの原則を満たし、上場企業と遜色ないガバナンス機能を有しています。加えて、優れた独自技術を持つ製造業であるため、経営層は高度な専門家集団であり、自ずと技術に焦点が当たることが多くなります。そこに、経済学者である私が経済学的な視点から議論を投げかけることは、社外取締役として果たすべき重要な役割の一つであると認識しています。今後、10年、20年先には、製造業のビジネスモデルさえ変容することでしょう。取締役会では、当社の事業と社会・経済との接点について、私なりの意見を述べていきたいと考えています。
気候変動、資源循環や人権の尊重などはSDGsで解決が求められており、最も重要なテーマです。企業はそもそも利益を上げることで存続するものですが、それと同時に地球環境、地域コミュニティや従業員などのあらゆるステークホルダーにサステナブルな価値を提供することも重要視されています。さらに単なる抽象論に留まるものではなく、具体的にどのような目標を立て、どのような成果を出すかまでを社会から問われていると言えます。
例えば気候変動に関して、JX金属は2050年度のCO2排出量ネットゼロに向けて「2030年度までにCO2自社総排出量2018年度比50%削減、2050年度ネットゼロ」という中間目標を掲げており、積極的に取り組む姿勢を打ち出しています。この目標を継続的に達成することは決して容易ではありませんが、具体的なデータや事例を用いて、社会に対し自社の姿勢を示していくことは非常に意義のあることだと思います。
海外では近年、いわゆる“物言う株主”が脱炭素に熱心な経営者を取締役に推薦し、機関投資家もこれに賛同してボードメンバーに加わる事例が散見されるようになりました。これは、世界中の投資家が目先の利益だけでなく、気候変動を中長期的な経営リスクとみなして対策を講じるべきだと認識している表れと言えます。こうした潮流を踏まえると、トランジション・ファイナンスをはじめとするESGファイナンスの活用やTCFDなど国際的に求められる情報開示を拡充していくことが、今後ますます重要になることでしょう。
経済学では、リスクのないところにリターンは存在しません。JX金属は現在、フォーカス事業を中心に積極的な投資を行っています。半導体、電池リサイクルあるいは再生可能エネルギーといった需要が拡大していく分野に関しては、需要を捉える投資が重要となります。その際、発生し得るリスクを適切に認識した上で、リスクを分散・ミニマイズすることが取締役会には求められます。先ほど述べた気候変動以外にも米中摩擦等の地政学リスクの高まりも指摘される中、幅広い製品群を持つ利点を活かして、柔軟な発想でリスク分散していくべきだと思います。
経済学者として見ると、日本経済の強さの源泉は素材にあり、素材産業は日本にとって欠かせないと言えます。素材の各分野において高度な専門性が求められますが、中でも非鉄金属は最も重要な役割を担っている分野の一つです。JX金属には、既に有している強みをさらに磨き、時代に合わせてダイナミックな変革を遂げながら、グローバルに成長していくことを期待しています。