当社グループは事業活動が環境へ及ぼす影響を十分に認識し、資源と素材の生産性を高める技術開発の推進により、地球規模の環境保全に貢献することを基本方針としています。また、事業の遂行にあたっては、サプライチェーンのあらゆる段階において環境負荷を低減することを追求しています。
評価: 達成・順調 未達
KPI | 2021年度実績・進捗 | 評価 |
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CO2自社総排出量:2050年度CO2ネットゼロ、 2030年度50%削減(2018年度比)に向けた 取り組みの推進 |
目標達成に向け発足したカーボンフリープロジェクトを通じた活動を継続し、 各拠点でのCO2フリー電力の導入やネットゼロに向けた事業部別のロードマッ プの作成をはじめとする脱炭素に向けた各種取り組みを推進しました。 |
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リサイクル原料比率:リサイクル原料品目の拡大 | 銅製錬におけるリサイクル原料比率(原料投入比率もしくは製品中の含有比 率)を2040年に50%以上に引き上げる目標に向け、リサイクル原料増処理に 向けた設備増設や新規プロセスの調査・試験などに取り組みました。 |
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埋立処分比率:2022年度1%未満 | 環境に及ぼす影響を最小限に抑えることを目的として、廃棄物を削減すべく 埋立処分比率1%未満を維持する目標を掲げています。2022年度の埋立処分 比率は0.92%でした。 |
当社グループでは、気候変動を地球規模で解決すべき喫緊の課題と捉え、その解決に寄与するべく、CO2ネットゼロを最終目標に掲げ、その達成に向けた取り組みを一層加速しています。
当社グループはTCFDの提言に従い、「ガバナンス」「リスク管理」「指標と目標」「戦略」の情報開示フレームワークに基づき積極的な情報開示に努めます。また、気候変動に対応する具体的な対策を講じます。
当社グループにおける気候変動対応に関する基本方針の策定、重点目標の設定、それらのモニタリング等については、社長の諮問機関であるESG推進会議で行っています。ESG推進会議は、社長を議長、当社の経営会議メンバーを構成員(社外取締役もオブザーバーとして参加)とし、原則として年2回開催されます。なお、審議・決定した事項については、内容に応じ、適宜、経営会議や取締役会へ付議・報告しています。
当社グループでは、気候変動に係るリスク・機会についてはESG推進部が各部門と連携し、TCFD提言のフレームワークに沿ってシナリオ分析を含む評価・特定を行っています。シナリオ分析にあたっては、気候変動影響に伴う規制や事業への影響等のリスク要因を幅広く情報収集・分析し、気候変動対応に係る自社のリスク・機会の把握、中長期的な事業戦略上の対策などを検討。分析の結果や対応策の実施状況等については、 ESG推進会議等を通じて経営陣に共有し、それをもとに各部門がESG推進部とも連携しながら取り組みを進めています。
当社グループは、気候変動における指標をCO2自社総排出量(Scope1,2)と定め、2050年度にCO2自社総排出量のネットゼロを目指すことを目標としています。2018年度のScope1,2におけるCO2自社総排出量を基準として、2050年度からのバックキャストで2030年度までに50%減を中間目標に設定しています。
気候変動が当社グループおよび当社グループ事業に及ぼすリスク・機会の抽出、リスクへの対応と機会の実現に向けた戦略を検討するにあたって、国際エネルギー機関(IEA)の「World Energy Outlook(WEO)」、WEO2018の「新 政策シナリオ(NPS)」、パリ協定を踏まえた「持続可能な開発シナリオ(SDS)」を参照したほか、2021年発表のNet Zero Emissions by 2050 Scenario(NZEシナリオ)を参考としました。このほか、国連のIPCC(気候変動に関する政府間パネル)の第5次評価報告書(2014年発表)による地球温暖化シナリオ(RCP2.6-RCP8.5)を分析に用いました。
気候変動に伴う脱炭素社会への移行を想定すると、再生可能エネルギーへの電源構成の転換、電動化等の電力利用の変革、サーキュラーエコノミーの社会実装等に向けて当社グループ事業の果たす役割は大きく、製品需要の増加や高機能化などの機会が想定されます。
一方、当社グループ自身がグローバルでカーボンニュートラル化を進めることに伴うコスト増加やその遅れによる機会損失などのリスクも存在します。また、国内外の事業所において、異常気象により生産設備や物流網が被害を受け、操業停止に陥る物理リスクの高まりが考えられます。
区分 | 影響 | リスクまたは機会 | 対策 |
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移行リスク | 政策・法規制 | CO2ネットゼロ達成に向けたコスト増加 |
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国内外での炭素税等の導入・強化 |
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評判 | 脱炭素や環境負荷低減への対応遅れによる 機会損失 |
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物理リスク | 急性 | 異常気象による設備毀損や操業停止 |
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機会 | 製品 | 脱炭素社会に必要な非鉄金属需要の増大 (ベース事業) |
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ハイエンドな電子材料の需要増大 (フォーカス事業) |
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サーキュラーエコノミー | 資源循環型社会の実現 |
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車載用LiBのリサイクル需要の増加や義務化 |
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脱炭素社会・資源循環型社会への移行に伴い、当社グループの事業に係る非鉄金属や高機能電子材料の需要が伸びていくことが想定され、これに応えるための能力増強、技術開発やパートナーシップ構築をいかに実現していくかがポイントと考えています。
一方、当社グループのカーボンニュートラルへの移行をスムーズに進めていくこと、自然災害に伴う物理リスク低減と発現時の影響の最小化に向けたBCP高度化が重要となること等がシナリオ分析の結果から見えてきました。
当社グループのCO2自社総排出量(Scope1,2)の約6割を占める電力は、国内外の主要事業所でCO2フリー電力への切り替えを進めています。また、自社での再生可能エネルギーの創出や製造プロセスで用いる電力以外のエネルギーについての対策も検討しています。
こうした取り組みに必要となる設備投資・研究開発費やCO2フリー電力と通常電力との価格差(プレミアム)等が追加コストとして発生していますが、非鉄金属業界で初となるトランジション・ファイナンスの活用や省エネ活動等を通じたコスト削減により、脱炭素に向けて着実に進めていきます。
国内外で検討されている炭素税等が導入された場合、CO2排出量に応じたコスト増加リスクが想定されます。なお、炭素税が導入されるとすれば年間のコスト負担増は約50億円と想定されます。
当社グループはカーボンニュートラルに向けたロードマップを策定し、CO2削減に向けた各種取り組みを着実に進めているため、相対的にコスト負担が軽微となる見込みです。
CO2排出量削減がロードマップ通りに進まない場合やその他環境負荷が増加する場合、当社グループの社会的信用が低下するリスクが考えられます。また、顧客からの気候変動に関連した要請への対応が遅延することで、販売機会の減少を招く可能性があります。
当社グループは脱炭素に向けた取り組みの着実な推進や個別の顧客要請への対応のみならず、サステナブルカッパー・ビジョンに基づき、CFP(カーボンフットプリント)低減やリサイクル原料比率の向上に向けて技術開発・設備投資に取り組んでいます。また、サステナブルカッパー・ビジョンの実現や浸透に向け、社外とのパートナーシップ構築を進めています。
リサイクル原料の物理選別技術
台風の大型化をはじめとする異常気象により、国内外の事業所で当社グループの各種設備が被害を受ける可能性があります。また、サプライヤー・物流網が被災することで、通常の操業が継続できなくなるリスクが高まります。
当社グループでは国内主要拠点で、ハザードマップなどを用いた分析を実施し、異常気象による被害のリスクが低いことを確認しました。また、事業継続計画(BCP)を策定した上で、定期的な訓練と見直しを行い、事業継続マネジメント(BCM)の構築を進めています。これらにより、異常気象による設備毀損や操業停止のリスクが具体化したとしても事業への影響を相対的に軽微に抑えることができると考えています。
脱炭素社会の実現に向け、再生可能エネルギーやモビリティの電動化ニーズが大幅に増加すると予想され、これら分野では銅をはじめとする非鉄金属がより多く使用されます。当社グループは資源事業、金属・リサイクル事業において2022年度に約187億円の営業利益をあげましたが、こうした伸びゆく需要は当社グループのさらなる販売や収益増の機会になることが期待されます。当社グループは、ポートフォリオの見直しを通じて事業の強靭化を図るとともに、安定供給体制の確立に向け、銅鉱石とリサイクル原料双方を活用する「グリーンハイブリッド製錬」におけるリサイクル原料の投入比率の向上とCFPの削減に向けた各種施策に取り組んでいます。
気候変動対応として、IoT、AI、5G・6G等を用いてエネルギー利用効率を大幅に改善することが不可欠です。これらの分野にはハイエンドな電子材料が多数使用され、その需要は今後も拡大を続ける見込みです。当社グループはスパッタリングターゲットやFPC用圧延銅箔をはじめとする電子材料分野で高い世界シェアを持つ製品群を抱えており、 2022年度に関連する事業において約564億円の営業利益をあげました。
現在、旺盛な需要に応えるべく複数の新工場建設や能力増強を進めるとともに、さらなる需要の増加を見据えて、茨城県ひたちなか市および米国での新工場建設を進めています。これらの設備投資に加えて、より長期的な視点から技術戦略部を中心に産学連携やスタートアップ投資などを通じたオープンイノベーションに取り組んでいます。
ひたちなか新工場(仮称)の完成イメージ
脱炭素社会の実現に向け、銅の需要は長期的に拡大していく一方、既存鉱山からの銅鉱石やリサイクル原料の供給には制限があります。
当社の策定したサステナブルカッパー・ビジョンは、銅鉱石とリサイクル原料双方を活用する「グリーンハイブリッド製錬」を通じて、拡大する銅需要を支える安定供給体制を構築することを目指すものです。サステナブルカッパーの進化と普及に向けたその施策の一つとして、リサイクル原料比率(原料投入比率もしくは製品中の含有比率)を2040年に50%以上にまで高めるべく技術開発に取り組んでいます。そのためにはリサイクル原料の集荷・処理体制の拡充が不可欠であり、設備投資やM&Aによるサプライチェーン強化のみならず、サステナブルカッパーの普及に向けて協働いただける企業、自治体、大学や研究機関とのパートナーシップ(Green Enabling Partnership)の構築を通じて、パートナーとの製品・スクラップ回収、原料再利用や共同技術開発を進めていきます。
脱炭素社会の姿の一つとして、電気自動車(EV)の普及が見込まれています。これによりEVに搭載されるリチウムイオン電池(LiB)に用いられるリチウム、コバルトやニッケルの需要が増加します。また、これらの資源を巡る地政学リスクや資源ナショナリズムの高まりが懸念されています。さらに、将来的にはLiBの大量廃棄も予想されることから、LiBの効率的なリサイクルが求められています。
当社グループでは、廃棄された車載用LiBから、これらの金属を車載用電池材料の状態で抽出する「クローズドループ・リサイクル」の実現を目指して、技術開発・実証実験やサプライチェーン全体での資源循環システムの構築に取り組んでいます。
LiBリサイクルのベンチスケール設備
2030年度・2050年度のCO2自社総排出量削減目標に向けて、①CO2フリーの電力導入、②再生可能エネルギーの創出、③エネルギーロスゼロ化活動の推進、④脱炭素に向けた燃料転換や技術開発の4つの重点活動に取り組んでいます。
この結果、2022年度のCO2自社排出量(Scope1,2合計)は797千t-CO2となりました。
当社グループでは、CO2排出量について従来のScope1,2に加えて、当社の事業や製品全体で生じるCO2排出量を把握するため、間接的な排出量であるScope3の算定に2021年度から着手しました。カーボンフリープロジェクトを中心とする全社横断の取り組みで、社外専門家の知見を得ながら各年度の実績を算定しました。今後、各カテゴリの算出方法や精度の向上、また排出量削減目標の策定とその実行に向けて検討していきます。
Scope1,2は量的重要性の高い拠点を対象に算定しています。Scope3は生産活動を行っている拠点を中心に算定しており、またカテゴリごとにバウンダリが異なります。なお、カテゴリ❽,⓫,⓮,⓯は当社グループで該当活動がないため算定していません。
❶購入した製品・サービス、❷資本財、❸Scope1,2に含まれない燃料およびエネルギー活動、❹輸送、配送(上流)、❺事業から出る廃棄物、❻出張、❼雇用者の通勤、❽リース資産(上流)、❾輸送、配送(下流)、❿販売した製品の加工、⓫販売した製品の使用、⓬販売した製品の廃棄、⓭リース資産(下流)、⓮フランチャイズ、⓯投資
2050年度の想定として、なりゆきでは事業拡大による排出量増加が見込まれます。これに対して、既に開始している4つの重点活動を中心として、省エネ、再エネ買電・自社創出、電化・燃料転換、プロセス変更、炭素回収・炭素循環※を組み合わせることで、2050年度に自社総排出量(Scope1,2)の実質ゼロを目指します。
リサイクル事業(「グリーンハイブリッド製錬」の進化)や先端技術素材・製品の供給を通して、社会全体のCO2削減に貢献します。当社グループのCO2排出量を実質ゼロとすることとあわせて、社会全体のCO2排出量を減少させることを目指します。
当社グループのCO2自社総排出量の約6割は電力に由来するため、2020年度よりCO2フリー電力※の導入を開始しました。2022年度は、契約上の制約がある一部拠点を除き、国内の主要拠点でCO2フリー電力への切り替えを完了しました。海外拠点においても順次、切り替えを進めています。
当社グループでは、自社での再生可能エネルギー創出にも取り組んでいます。これまでも国内外事業所で水力、バイナリー、太陽光発電設備を導入してきましたが、2022年6月には磯原工場でグループ2例目となるPPA※によるオンサイト太陽光発電設備の稼働を開始しました。
2023年4月には、倉見工場でオフサイトPPAモデルによる導入を行いました。工場の敷地外に設置するオフサイト型についてはグループで初となります。発電規模は太陽光パネルベースで約9,000kWで、単一の事業所向けのオフサイトPPAモデルによる太陽光発電としては国内最大級となる見込みです。また、今回のオフサイトPPAモデルによる太陽光発電の導入に加えて、倉見工場に新設したR&D棟にも太陽光発電を導入し、使用電力の一部を賄っています。
PPA事業者により設置された太陽光発電所の一例
拠点 | 発電方法 | 発電量 |
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当社 柿の沢発電所 | 水力 | 24,629 |
JX金属プレシジョンテクノロジー(株)掛川工場 | 太陽光 | 2,351 |
磯原工場 | 太陽光 | 211 |
下田温泉(株) | 地熱 | 36 |
台湾日鉱金属股份有限公司 | 太陽光 | 205 |
日鉱金属(蘇州)有限公司 | 太陽光 | 71 |
JX Metals Korea Co., Ltd. | 太陽光 | 112 |
Materials Service Complex Coil Center (Thailand) Co., Ltd. | 太陽光 | 14 |
電力多消費型の産業を営む当社グループでは、これまでも事業活動のあらゆるステージで省エネ活動を推進してきましたが、CO2ネットゼロの達成に向けて、新たな切り口によるゼロ化活動の推進が必要と考えています。例えば、コスト削減軸を超えたCO2削減軸による設備更新や、設備運用方法の抜本的見直しなど、グループ全社員からアイデアを募り、エネルギーロスゼロ化に挑戦していきます。
2023年6月には技術本部技術戦略部に「生産技術室」を新設しました。同組織は、これまで各部門が個別に培ってきた生産技術を横断的に展開・活用し、当社グループ全体の生産プロセスの最適化などを目指す部署であり、この一環としてさらなる省エネルギーや廃熱回収設備の導入などCO2削減についてもグループ横断的に推進してまいります。
当社グループの事業プロセスでは、電力以外のエネルギー源として重油、還元剤としてのコークス等を利用しており、これらからのCO2排出についても削減に取り組んでいます。その候補の一つが燃料転換で、産業界では水素やアンモニアなど新たな燃料の技術開発が進んでいますが、当社でもこれらの利用を検討していきます。
CO2ネットゼロに向けた全社方針、具体的な施策の協議・決定を行う組織として2022年度に発足したカーボンフリー委員会では、ESG推進部を中心に、各事業部、生産拠点の幹部、技術本部、グループ各社の経営層が委員として参加しています。発足以来、CO2ネットゼロに向けて全社的・戦略的な観点から、事業競争力・付加価値向上に資する脱炭素・資源循環施策を検討しており、①JX金属グループ長期ビジョン・2023〜2025年度中期経営計画、②サステナブルカッパー・プロジェクト、③社会情勢などを踏まえ、「カーボンニュートラル工場(Scope1およびScope2 CO2ネットゼロの生産拠点、特に燃料由来CO2削減の徹底)」の早期実現をテーマとすることとしました。
現在、GHG 多排出産業による長期的なトランジション戦略の遂行を後押しする仕組みとして「トランジション・リンク・ローン(TLL)」への期待が高まっており、国内外でルールの整備が進められています。
当社グループは、2022年6月、国内非鉄金属業界として初めて、「トランジション・リンク・ローン・フレームワーク(TLLF )」を策定しました。このフレームワークは(株)みずほ銀行の支援を受けて策定したもので、経済産業省・環境省・金融庁の定める「クライメート・トランジション・ファイナンスに関する基本指針」などの各種原則、ガイドラインとの適格性に関する第三者評価を取得しました。当社のTLLFでは2つのサステナビリティ・パフォーマンス・ターゲット(SPTs)を設定し、その達成状況をTLLの金利条件と連動させることにより、当社としてトランジション戦略の実行をコミットする仕組みを構築しています。
また、策定したフレームワークに基づき、2022年6月に(株)常陽銀行との間でTLLの契約を締結しました。これは国内非鉄業界におけるTLLの第1号案件であり、茨城県日立市で建設中の半導体用スパッタリングターゲットの新たな生産拠点である日立北新工場(仮称)における環境対応費用に活用される予定です。
日立北新工場(仮称)
経済産業省が主導するGXリーグは、2050年カーボンニュートラル実現を見据えてGX(グリーントランスフォーメーション)ヘの挑戦を行い、経済社会システム全体の変革を目指して産・官・学が協働する枠組みです。当社はGXに向けた活動を推進していることから、「GXリーグ基本構想」への賛同を表明しました。
2023年度から2025年度の「第1フェーズ」にも参画を表明しています。「第1フェーズ」では、「未来社会像対話の場」「市場ルール形成の場」「自主的な排出量取引」の3つの取り組みの実証、対話が行われています。当社もGXの実現に向けて積極的なディスカッションや情報交換を行っていきます。
当社グループは、資源の価値を最大限に保ちながら循環を繰り返し、最終的に廃棄される資源を最小化していくことが素材産業に関わるものの使命であると認識しています。この考えのもと、サーキュラーエコノミー(循環型経済)の実現を目指しています。
LiBに使用されるニッケル、コバルト、リチウム等のレアメタルは、我が国では産出されず特定の国・地域に偏在しており、これら資源の利用・確保に係る環境負荷やサプライチェーンリスクの低減が重大な社会課題となっています。
当社は2020年に日立事業所に設置した連続式小型試験装置(ベンチスケール)で、使用済みの車載用LiBからレアメタルを回収、再び車載用LiBの原料として使用する「クローズドループ・リサイクル」プロセスを確立しました。現在、JX金属サーキュラーソリューションズ(株)(敦賀)にスケールアップしたプロセスを導入、実証試験操業中です。高純度硫酸ニッケル回収設備(2021年稼働開始)、高純度硫酸コバルト回収設備(同2022年)に続き、2023年4月より高純度炭酸リチウム回収設備も稼働を開始。今後、高純度のリサイクル出金属塩をサプライチェーンへ供用し、クローズドループ・リサイクルを実証してまいります。
日立事業所のベンチスケール設備
2022年に採択されたドイツ中央政府が支援するHVBaTCycleコンソーシアムにおいて、当社プロセスによる車載用LiBクローズドループ・リサイクルを実証するため、TANIOBIS構内(ゴスラー)に新設した湿式プロセス研究開発設備が2023年3月より操業を開始しました。フォルクスワーゲン社から提供される電池粉(ブラックマスとも呼ばれる)を用いて、プロジェクトパートナーとともに、高品質な電池原料を高収率で回収すべく、プロセスの最適化に取り組んでまいります。
2022年4月、当社の進める「クローズドループ・リサイクルによる車載用LiB再資源化」事業が国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が運営するグリーンイノベーション基金に採択されました。現在、同基金を活用し、アカデミアとも連携しながら、①LiBリサイクルのLCA(ライフサイクルアセスメント)評価手法確立、②湿式処理による金属回収技術の高度化、③無害化前処理技術による金属回収技術の高度化、研究を計画通り進めています。
環境事業においては、産業廃棄物を処理する際に発生する焼却灰や焼却残渣などの二次廃棄物を最終処分場に埋め立てることが一般的に行われています。
当社グループでは「捨てない、埋めない」をスローガンとし、環境事業とリサイクル事業を組み合わせることで、これら二次廃棄物をリサイクルし、その中に含まれる有価金属を再資源化するシステムを構築・運用することで「ゼロエミッション」に向けて取り組んでいます。環境事業に携わる関係会社と金属・リサイクル事業拠点が連携し、一体となって資源循環型社会の実現に向けて取り組んでいます。
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当社グループでは、「生物多様性の保全」を重要な経営課題であると認識しています。特に鉱山での操業は地域の生態系との関わりが強いため、十分な配慮が必要であり、さまざまな取り組みを実施しています。
当社グループの国内6拠点を対象として生物多様性評価ツールであるIBAT(Integrated Biodiversity Assessment Tool:生物多様性統合アセスメントツール)を使用して、各拠点から半径5km圏内を調査対象とし近接する保護区の有無を確認した結果、厳正保護地域、原生自然地域、国立公園および天然記念物(Ⅰa,b、Ⅱ、Ⅲ:右表参照)に該当する保護区は確認されませんでした。
カテゴリーⅠa カテゴリーⅠb |
厳正保護地域 原生自然地域 |
学術研究若しくは原生自然の保護を主目的として管理される保護地域 |
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カテゴリーⅡ | 国立公園 | 生態系の保護とレクリエーションを主目的として管理される地域 |
カテゴリーⅢ | 天然記念物 | 特別な自然現象の保護を主目的として管理される地域 |
カテゴリーⅣ | 種と生息地 管理地域 |
管理を加えることによる保全を主目的として管理される地域 |
カテゴリーⅤ | 景観保護地域 | 景観の保護とレクリエーションを主目的として管理される地域 |
カテゴリーⅥ | 資源保護地域 | 自然の生態系の持続可能利用を主目的として管理される地域 |
当社グループは1905年の創業以来、全国各地で鉱山を操業し、非鉄金属などの安定供給と日本の経済発展に貢献してきました。しかし、国内ではそのほとんどが鉱量枯渇に伴って操業を停止しており、現在では休廃止鉱山として坑廃水処理などを行い、自然環境の維持・保全を図っています。
当社が所管する休廃止鉱山については、JX金属エコマネジメント(株)が管理を担っています。主な業務は、坑廃水の無害化と、堆積場や坑道などの維持・保全です。坑廃水は、雨水などが鉱山に残る鉱石や堆積場の捨石・鉱さいなどに接触することによって、金属を含む強酸性となるため、1日たりとも休むことなく処理を行う必要があります。また、堆積場については、近年の線状降水帯による豪雨や大規模地震に対応するための工事を進めています。こうした休廃止鉱山の管理により、自然環境の保全に努めています。
豊羽鉱山石山堆積場整備事業
当社グループでは鉱山跡地を中心に、全国各地で森林整備活動を行っています。社員とその家族が参加し、自然とのふれあいを通じて、地域の環境を守ることの大切さを伝えていく活動となっています。
2022年11月19日、第16回鞍掛山さくらの山づくりボランティアが実施され、当社は日立地区から所長をはじめ26名が参加しました。その他、日立市内の企業や市民団体、近隣住民が参加し、総勢約150名での実施となりました。
かつて日立鉱山では、大正から昭和にかけて1,000万本にも及ぶ植林を行い、その結果、日立市では多くの桜が自生するようになりました。本活動は、鞍掛山の桜を100年後に伝える山づくりのため、日立市が2008年から主催するもので、今回4年ぶりの開催となりました。当日は清々しい晴天のもと、各団体が持ち場に分かれて倒木の撤去や下草刈り、枝打ちなどに汗を流しました。約1時間にわたる作業の後は、日立市からおにぎり弁当が配られ、当所からも大子町のリンゴを差し入れました。参加者からは「来年の桜が今から楽しみです」といった声が聞かれました。
参加者全員の集合写真
ケーブルテレビJWAYよりインタビューを受ける
鈴木所長
当社社員による整備活動
当社グループの事業活動においては、銅鉱山の操業プロセスや製錬所での冷却水(主に海水)などとして多くの水を使用しています。水資源は当社グループの事業活動に不可欠であり、また当社グループの生産拠点等が立地する地域社会においても大切な資源であると認識しています。こうした考えのもと、これらの拠点では水使用量の適切な把握を行い、削減や再利用の検討を行うことで水資源の有効活用に努めています。
各製造拠点では、法律や条例の排出基準よりも厳しい自主基準を設けてモニタリングしています。また、基準値超過を起こさないよう適切に操業管理をしています。
当社グループでは、水不足、水質汚濁、気候変動に関連した洪水などの水リスクが各生産拠点にどのような影響を及ぼすかを評価・確認しています。水リスクを評価するツールとして、世界資源研究所(WRI)が提供している水リスク評価ツール「Aqueduct Water Risk Atlas」を用いてどのような水リスクがあるのか特定しています。
2022年度は主な生産拠点である国内6拠点を調査した結果、水リスクが高いと評価された拠点はありませんでした。
当社グループでは、化学物質管理基準を自主的に定め、使用を管理することにより、その有害性の低減に努めています。また、グリーン調達ガイドラインにおいても製造工程および資機材に含有してはならない物質を明確に示しており、サプライヤーに対して周知しています。さらに、安全性情報について、お客様をはじめ製品に関わるすべての方に提供することに努めています。
当社グループでは、低濃度PCB処理事業やアスベスト処理事業などを通じて、有害廃棄物を無害化することで環境保全に貢献しています。JX金属苫小牧ケミカル(株)では、2014年に北海道内初の低濃度PCB廃棄物の無害化処理施設として環境大臣認定を受け、地域の低濃度PCB廃棄物処理に貢献しています。また、JX金属環境(株)では、アスベストの溶融無害化処理事業を行い、2022年度は、約2,800トンの廃アスベストを処理しました。
一方、当社グループ所有の高濃度PCB機器については、中間貯蔵・環境安全事業(株)における処理を進め、期限内に処理完了の予定です。また、低濃度PCB機器についても、JX金属苫小牧ケミカル(株)をはじめとする低濃度PCB処理認定業者による処理を計画的に進めており、処分期限2年前の2024年度までに処理完了の予定です。
JX金属苫小牧ケミカル(株)のロータリーキルン式焼却炉
私たちJX金属グループは、非鉄金属・先端素材の総合メーカーとして資源と素材の生産性革新に挑戦するとともに、各種環境規制の遵守はもとより、地球温暖化対策をはじめとする地球規模の環境保全に積極的に取り組み、持続可能な社会の実現に貢献するため、以下の活動を展開します。
1. 技術革新とエネルギーの転換を推進し、温室効果ガス排出ゼロを目指すことで、脱炭素社会の実現に貢献する。
2. 社会の成長と高度化を支える環境に優しい先端素材を社会へ供給する。
3. すべての事業活動において、資源循環を推進し、ゼロエミッションを目指す。
4. 環境教育等により、従業員一人ひとりの環境保全意識向上を徹底し、より環境への負荷が少ない事業活動に繋げる。
5. 環境保全活動の情報をステークホルダーと共有し、社会との共生を図る。
当社グループでは環境マネジメントシステムの確実な運用により、各種法規制の遵守に努めています。遵守状況は本社環境安全部により統括管理され、安全・環境委員会を通じてESG推進会議に報告されます。毎年開催される環境管理担当者会議では、法規制の動向に関する情報提供や、各事業所における対応状況報告などを通じて、遵法体制の強化を図っています。また、各種法規制の周知徹底のため、本社および各事業所において、従業員の階層ごとに定期的な教育や研修・訓練などを行っています。
2022年度も環境に関わる法規制などの違反について、規制当局からの不利益処分(許可の取り消し、操業停止命令、設備の使用停止命令、改善命令、罰金など)はありませんでした。
当社グループでは、「環境基本方針」に基づいて定めた「環境保全行動計画」の確実な実施のため、ISO14001に則った環境マネジメントシステムを構築しています。当社社長をトップに経営層から各事業所・関係会社の従業員まで一体となって、環境保全の推進と環境リスクの回避を実現するため、各委員会の開催や部会の開催など多層的な管理体制を構築しています。なお、2022年度の環境事故の発生はありませんでした。
各事業所において年1回以上の内部環境監査を実施するとともに、本社環境安全部による環境安全監査を定期的に実施しています。2022年度は19事業所を監査しました。
安全衛生・環境保全に関する活動については、ESG推進会議の下部組織である安全・環境委員会において計画の策定・推進、活動状況のレビュー等を行っています。安全・環境委員会は、半期に1回開催しています。
磯原工場での環境安全監査の様子
当社グループは資機材の購入にあたり、環境負荷など社会的影響の低減を目的として「グリーン調達方針」を定め、これに基づき具体的なサプライヤーの選定条件を定めた「グリーン調達ガイドライン」を策定しています。本ガイドラインはグリーン調達に関して遵守いただきたい条件を示しており、すべてのサプライヤーに対して適用されるものです。
なお、本ガイドラインは、当社が調達先に対して実施している「CSR調達アンケート」の中で遵守状況を確認しています。2022年度、回答が得られたサプライヤーは約85%でした。