ニュースリリース
2026年度
2026年6月23日
JX金属株式会社
水素製造PEM水電解におけるイリジウム触媒の使用効率向上と使用量低減に関する新知見を発表
―コロンビア大学への委託研究成果が国際学術誌に掲載―
JX金属株式会社(社長:林 陽一、以下「当社」)は、水素製造に用いられるPEM(プロトン交換膜)水電解※1において、触媒として使用するイリジウム※2の使用効率向上および使用量低減に関する新たな知見を獲得しましたのでお知らせします。本研究成果は、米国コロンビア大学Jingguang G. Chen 教授との委託研究を通じて得られたものであり、触媒分野の国際学術誌 ACS Catalysis に掲載されました※3。
2050年のカーボンニュートラル実現に向け、次世代エネルギーとして水素の利活用に関する取り組みが世界的に進められており、中でもグリーン水素※4は、脱炭素社会の実現に加え、エネルギー安全保障の強化、産業競争力の向上といった観点からも期待が高まっています。グリーン水素製造方法のひとつであるPEM水電解は、高純度の水素を効率的に製造できる点で注目されていますが、高価かつ希少なイリジウムを触媒として使用するため、コストと資源の制約が普及の課題となっています。
こうした課題に対し、イリジウム使用量の低減と触媒性能の維持・向上を両立させるための研究開発が活発化しています。当社は、レアメタル材料の粉体制御・表面/界面制御など、これまで培ってきた技術の知見を活かせる新規事業テーマのひとつとして本分野に着目しており、将来的な事業化可能性の検証も見据えて、コロンビア大学へ委託研究を実施しています。
本研究では、電気伝導性と電気化学的安定性を兼ね備えたタンタルカーバイド(TaC)を支持体として用い、その表面にイリジウム酸化物(IrOX)を担持※5した電極触媒に着目し、酸性条件下での反応性能や、長時間使用した際の安定性を評価しました。
その結果、IrOX/TaC触媒は、評価条件によっては従来広く用いられてきたIrO2触媒と比較して最大約6倍の高いイリジウム質量活性※6を示しました。これは、イリジウム使用量を約80%低減できる可能性を示唆しています。加えて、0.5 A cm-2での200時間の連続運転試験において、劣化率36 μVh-1と耐久性の面でも有望であることが確認されました。さらに、IrOX/TaC界面に形成されるIr-O-Ta結合により、従来のIrO2触媒に比べて酸素発生反応の過電圧が低下することが示されました。これらの結果は、より少ない電気エネルギーで水素を製造できる可能性も示すものであり、イリジウム使用量の削減と水電解効率の向上を同時に実現する新たな材料設計指針となりうることが期待されます。
当社は、「2040年JX金属グループ長期ビジョン」において、装置産業型企業から技術立脚型企業への転身を掲げ、フォーカス事業における収益規模の拡大に向け新規事業の創出に注力しています。当社は、本件のみならず、着目する注力分野で、これまでの事業で培ったコア技術を活かしながら、価値創出につながる領域への挑戦を積極的に進め、新規事業の創出を加速していきます。
当社は今後も、パートナーとの共創による研究開発を通じて、持続可能な社会の実現に貢献してまいります。
以 上
<参考>
※1 固体高分子膜を用いて水を電気分解し、高純度水素を製造する技術。
※2 イリジウム(原子番号77、元素記号Ir)は、白金族に属する貴金属であり、かつ極めて高い耐食性・高融点を持つ希少なレアメタルです。化学反応の触媒の他、自動車のプラグ、るつぼ等に利用されています。
※4 再生可能エネルギーを使ってCO2をほとんど排出せずに水を分解し製造された水素の事。
※5 触媒として働く成分を別の材料の表面に固定・分散させる手法
※6 単位質量当たりの触媒の活性のことで、燃料電池触媒のコスト削減における重要指標の一つ。触媒の量が多いほど質量は増えるため、少ない触媒量で高い反応速度を得るためには高い質量活性が必要となる。

IrOx/TaC触媒の概略図
支持体となるTaCにIrOXを担持

IrO2触媒の概略図

IrOX/TaC触媒

Chen 教授(左から3人目)と研究チーム
