
トップメッセージ


株式上場のご挨拶
当社は2025年3月19日、東京証券取引所プライム市場へ上場いたしました。これもひとえに、ステークホルダーの皆様のご支援・ご協力の賜物であり、心より感謝申し上げます。
JX金属のルーツは、創業者・久原房之助が1905年に日立鉱山を開業したことに始まります。久原は開業当初から機械化・近代化を推進し、わずか数年で日立鉱山を日本有数の銅山へと育て上げ、日立製作所などを傘下に持つ日産コンツェルンの源流を築きました。以来120年にわたり、幾度もの挑戦と変化を繰り返しながら、今日にいたるまで、事業を進化させてまいりました。現在は、銅をはじめとする主要なベースメタルに加え、貴金属やレアメタルなどに関する先端材料のグローバルプレイヤーとして、資源の確保からリサイクルまでの一貫したサプライチェーンのもと事業を展開しています。
2019年6月には、20年先の未来を見据え、「JX金属グループ2040年長期ビジョン」を策定(2023年5月に一部改定)しました。当ビジョンでは、「『装置産業型企業』から『技術立脚型企業』への転身により、激化する国際競争の中にあっても高収益体質を実現、半導体材料/情報通信材料のグローバルリーダーとして、持続可能な社会の発展に貢献する」ことを基本方針として掲げました。今後も当ビジョンのもと、ステークホルダーの皆様からのご期待にお応えするべく、企業価値の向上に向けて邁進してまいります。引き続き変わらぬご支援を賜りますようお願い申し上げます。
IPOにおける投資家との対話から得られたもの
当社は2023年5月に上場準備を開始することを発表し、本格的に準備を進めてきました。今回のIPO(新規株式公開)にあたっては、資源・製錬リサイクルを中心とする「装置産業型企業」から半導体・情報通信材料事業を中心とする「技術立脚型企業」への転身を着実に進めてきたことが、市場からの一定の評価につながったと考えています。一方で、グローバルオファリングを通じた投資家の皆様との対話では、これまでENEOSホールディングスの傘下にあったこともあり、JX金属という会社について、あるいは私たちのビジネスモデルについて、十分に認知されていないと感じる場面もありました。
当社は、上場準備開始前から事業ポートフォリオの見直しを進め、先端材料を扱う半導体・情報通信材料セグメントからなる「フォーカス事業」を成長戦略のコアとし、資源・製錬リサイクルを担う基礎材料セグメントからなる「ベース事業」を原材料の安定供給を通じてフォーカス事業を支える基盤として位置付けています。
フォーカス事業は、技術による差別化でグローバル競争を勝ち抜き、市場成長以上の利益成長を目指していますが、その実現には、強みを持つ製品をさらに伸ばすとともに、新しい製品を次々と創出していくことが必要となります。その過程では非常に多くの新規事業創出に向けた施策が必要であり、相当な試行錯誤に耐えられる体制こそが不可欠です。そういった意味で、ベース事業が材料を安定的に供給し、成長を支えるという役割は極めて重要であると考えています。
IPO前における投資家の皆様との対話では「フォーカス事業に集中すべきではないか」とのご意見をいただくこともありました。しかしながら、地政学的リスクが高まる現在、当社の半導体材料に不可欠な貴金属·レアメタルの安定的な調達は、事業継続の根幹をなす重要課題です。サプライチェーンの強靭化という観点から、従来のリサイクル原料による回収強化に加え、レアメタル鉱山開発の重要性も高まっています。
一方で「とはいえ、ベース事業の規模が大きすぎるのではないか」とのご指摘もありました。当社としても、銅の生産能力がフォーカス事業の需要を大きく上回っている点を課題と認識しており、これまでにカセロネス銅鉱山の権益売却や、銅製錬事業子会社であるパンパシフィック·カッパー株式会社の株式売却などを通じて、アセットライト化を着実に進めてまいりました。
このような対話を通じて、投資家の皆様のシビアなスピード感というものを肌で感じました。その中で、事業ポートフォリオ改革の実践をはじめ、フォーカス·ベース両事業のシナジーについて迅速にお示しできたことは、当社にとって大きな自信につながりましたし、投資家の皆様の信頼を得ることにもつながったのでないかと考えています。
今後、半導体材料/情報通信材料のグローバルリーダーとしてのプレゼンスをより高めていくにあたり、どのような成長曲線を描いていくのか、具体的にどの事業を成長させていくのかを明確に示すことが重要だと考えています。たとえマルチプルが一定でも事業が成長すれば、企業価値ひいては株価の上昇につながり、さらにポートフォリオ変革が加わればマルチプル倍率も上がり、更なる企業価値、株価の向上につながるものと思います。米中対立、ロシアによるウクライナ侵攻、中東情勢の不安定化など地政学リスクの高まりは予断を許さない状況ですが、当社の強みであるフォーカス事業とベース事業の両輪を軸に、事業ポートフォリオの変革の姿をしっかりとお伝えし、ステークホルダーの皆様との対話を重ねながら、スピード感をもって意思決定をしてまいります。
変わらぬ想いの具体化、新理念体系の策定
今回のIPOを通じて、当社のビジネスモデルに対する理解を深めていただくことや、マーケットからの評価を高めることと同時に、従業員一人一人が自身の仕事や会社に誇りを持ち、エンゲージメントを高めることの重要性を改めて認識しました。これまでにもテレビCMの出稿やプロスポーツクラブとのスポンサー契約など、積極的なブランディング施策を展開してきましたが、それらに加えて上場決定が大きく報道にも取り上げられたことで、「ママ・パパの会社ってすごいんだね」とご家族に言ってもらえたという従業員からの声も届きました。こうした会社に対するポジティブな評価や誇りといったものを全社で共有し、一丸となって長期ビジョンの達成に向けて取り組んでいくことの必要性を強く感じています。
そして、上場を機に、創業以来120年の歴史の中で培われ、脈々と受け継がれてきた当社グループの考え方や姿勢、精神を改めて言語化し、当社グループのあらゆる活動の拠り所とすべく、2025年9月にOur
Purpose「価値をつくる。未来をつくる。技術で、情熱で、創造力で。」を中核とするJX金属グループフィロソフィーを策定·公表しました。
創業当時、日立鉱山では銅の製錬に伴って発生する亜硫酸ガスにより煙害問題が深刻化しました。創業者·久原房之助はその解決策として、当時としては世界一高い大煙突建設を断行し、地域との共存共栄を実現しました。これは技術的な裏付けは当然として、それ以上に「変化や失敗を恐れず、垣根を越えた議論や人の和を通じ、持続可能な形で社会と共に発展する」という事業や社会に対する強い責任や使命といった確固たる信念があり、胆力をもって経営判断をしてきたということの表れだと思っています。日立鉱山の大煙突は、社会における私たちの存在意義を象徴する原点といえる存在であり、その後も当社は、銅をはじめとして、電子デバイスを支える先端材料、資源循環を実現するリサイクルなど、変化し続ける社会のニーズに応じて果敢に自らを変革し、常に時代ごとの「より良い未来」につながる「価値」を生み出してまいりました。
本フィロソフィーには、世界がますます不確実性や複雑性を増していく中にあっても、当社グループはこれからも自由な発想で価値創出を追求し、人々の暮らしをより良くしていくという思いを込めました。
当社は長期ビジョンに定めたとおり、半導体材料・情報通信材料を中心とする先端材料事業への注力を進めています。この事業ポートフォリオ変革を完遂することによって、困難な時代に立ち向かい、大煙突の時と同じように未来を切り拓こうとしています。創業以来の“変わらぬ想い”を改めてグループ全員で共有し、一人一人が自らの行動に落とし込むことで、このJX金属グループフィロソフィーが長期ビジョン達成に向けた推進力になるものと期待しています。
私たちは変わらぬ想いのもと、技術、情熱、創造力を発揮し、「新しい価値=未来をつくる会社」で在り続けたいと考えています。そして、従業員一人一人が「会社は自分のもので、会社を変えるのは自分だ」というオーナーシップ意識を持って、次なる変革や未来づくりに一丸となって向かっていきたいと思います。
長期ビジョン実現に向けた中長期事業目標の進捗
当社は2024年5月、足元の取り組みおよび事業環境を踏まえ、2040年長期ビジョンの実現に向けた「中長期事業目標」を策定しました。2028年3月期をターゲットとする目標達成に向けて、ここまでは概ね順調に進んでいますが、米国関税政策を端緒とする外部環境の変化はますます激しく、先行き不透明な状況が続いています。こうした中で、市場の変化に柔軟に対応しながら、常にベストオーナーの視点で資源配分を行っていく必要があると考えています。
中長期事業目標の達成に向けたキャピタルアロケーションの注力ポイントは大きく分けて2つあります。
1つめは、フォーカス事業をしっかりと成長軌道に乗せることです。半導体材料と情報通信材料への成長投資を継続していくことに関しては、需要の下振れリスクについて認識しつつも、当社の競争優位性である先端材料の技術力を発揮して、ビジネスとして価値を生むことが重要です。半導体用スパッタリングターゲットや圧延銅箔といった当社の強みである製品については、設備投資をしながらボリュームを増やしていき、しっかりと今の地位を堅持しながら、その上で、次世代の収益の柱となる製品を育てていかなくてはならないと考えています。例えば、生成AIやデータセンター市場では、光通信に用いられる結晶材料のInP(インジウムリン)が昨年から1.5倍伸びており、今後も20~30%伸びていくと予想されます。そのほか、AIサーバ向けHDDに使用される磁性材用スパッタリングターゲット、高速伝送用コネクタ材料であるチタン銅、電力の安定供給が求められるキャパシタ材料としてのタンタル粉などの高品質な材料の需要が拡大しています。さらには、次世代半導体の配線材料として使用されるCVD·ALD用材料も既に量産化を開始しており、大きな成長が見込まれています。こうした社会を支える先端材料の開発·供給を通じて、持続的な成長を目指していきます。
2つめは、ベース事業の強靭化です。冒頭に申し上げた通り、ベース事業は当社ビジネスのサプライチェーンにおいて重要な役割を担っているものの、事業環境が一層厳しくなる中で、現状維持では2040年まで生き残ることは難しく、より高い付加価値を生み出していく必要があると考えています。その一環として、レアメタル鉱山への新規投資や、銅製錬におけるリサイクルの拡大を通じたレアメタル・貴金属の回収を促進し、価値の最大化を図っていきます。また、こうした取り組みはサーキュラーエコノミー(循環型経済)の形成にもつながるものですから、当社だけでなく社会全体にとっても価値があるものだと考えています。そのためには、外部組織との連携もこれまで以上に強化していく必要があるでしょう。
いずれにしても、現在の事業ポートフォリオのままで2040年を迎えられるとは考えていません。生成AI、IoT社会の発展を、先端材料のグローバルリーダーを目指すうえでの大きな好機と捉え、スピード感をもって事業構造を変革し、チャンスをつかみ取りにいく姿勢が重要です。20年先もしっかりと価値を提供し続ける組織・事業体であるために、スピード感をもって進化を遂げることが、経営トップである私に課せられた使命であると認識しています。
JX金属グループ2040年長期ビジョン

中長期の事業目標
2023年3月期実績 | 2024年3月期実績 | 2025年3月期実績 | 2028年3月期目標※1 | ||
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営業利益 | 連結 | 729億円 | 862億円 | 1,125億円 | CAGR10%~15% (2024年3月期- 2028年3月期) |
フォーカス事業 | 557億円 | 273億円 | 518億円 | CAGR35%~40% (2024年3月期- 2028年3月期) |
|
営業利益率 | 連結 | 4.5% | 5.7% | 15.7% | 12%〜17% |
フォーカス事業 | 15.0% | 8.8% | 12.5% | 15%〜20% | |
半導体材料セグメント | 23.2% | 21.4% | 18.0% | 25%〜30% | |
情報通信材料セグメント | 9.6% | 0.5% | 9.5% | 8%〜13% | |
事業別利益構成比 | フォーカス事業※2 | 66% | 26% | 41% | 67%以上 |
半導体材料セグメント※2 | 40% | 25% | 21% | 45%以上 | |
ROE | 7.7% | 18.3% | 11.0% | 10%以上 | |
Net Debt/EBITDA※3 | 4.0倍 | 2.6倍 | 1.6倍 | 1.5倍未満 |
※1 目標値の前提として、為替は2025年3月期140円/ドル・2026年3月期以降135円/ドル、銅価は2025年3月期以降380¢/lbとしています。
※2
事業共通費用を除いたフォーカス事業(半導体材料セグメント、情報通信材料セグメント)およびベース事業(基礎材料セグメント)の営業利益を基に算出しています。フォーカス事業の営業利益は半導体材料セグメントと情報通信材料セグメントの営業利益の単純合算値です。
※3 Net Debt(有利子負債-現預金(ENEOSグループ金融短期貸付金含む))÷ EBITDA(営業利益+減価償却費)により算出しています。
サステナビリティ経営とガバナンス強化
2040年長期ビジョンの実現に向けて、当社では優先的に取り組むべき6つの重要課題(マテリアリティ)を特定しており、各マテリアリティにKPIを設定し、サステナビリティ推進会議にて達成度合いを測定・評価しながら運用しています。
当社グループは、今後到来するデータ社会やIoT・AI社会を支える製品・技術をいち早く社会に提供し、持続可能な社会の実現に貢献することを目指しており、「くらしを支える先端材料の提供」を重要課題の一つとしています。
その上で「地球環境保全への貢献」「地域コミュニティとの共存共栄」という項目は、当社の創業以来の原点とも言えるテーマであり、当社のビジネスに最も関係の深いものとして、長期的な成長を目指す上で極めて重要な意味を持っています。
「魅力ある職場の実現」についても、技術立脚型企業への転身を図り、企業価値の最大化を実現していくためには、「人」の力によるイノベーションが不可欠であることから、重要な課題の一つと位置付けています。従業員一人一人がスキルを高めていくことも大切ですが、「主体的に考え、革新をリードする勇気を持った人」をどのように育てていくかが何より重要であると考えています。そのために、企業風土としても挑戦を「ほめる」文化を定着させ、成果を正当に評価できる仕組みを構築し、心理的安全性の高い職場づくりを進めていきます。
また、近年ではサプライチェーンにおける人権侵害の問題がしばしば取り沙汰されています。グローバルに資源/材料を扱う会社としてサプライチェーンにおける人権リスクには真摯に向き合っていますが、DE&I(ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョン)を含めた、より広い意味で人権に対する意識を高めながら、これまで以上に身を引き締め、「人権の尊重」を推進していきたいと考えています。
「ガバナンスの強化」については、ENEOSグループからの独立を見据え、早い段階から社外取締役を選任し、段階的に時間をかけて体制整備を進めてきました。中でも役員報酬に関しては、私たちの覚悟と責任を示す水準として、業績連動比率を全体の6割とし、さらに長期業績連動比率を設定し、これを業績連動の36%としました。また、非財務要素も評価に組み込み、従業員の安全やエンゲージメント向上といった視点も重視しています。このほか、社長という立場になって一層強く感じているのが、リスクマネジメントの重要性です。当社はしばらくENEOSグループの傘下にあり、非上場でもあったため、リスクマネジメントのレベルは決して十分とは言えませんでした。上場を果たした今、求められる基準に見合った体制へと引き上げることが必要であり、この取り組みがマテリアリティの実践にも直結すると考えています。
JX金属グループ6つのマテリアリティ
- 地球環境保全への貢献
- くらしを支える先端材料の提供
- 魅力ある職場の実現
- 人権の尊重
- 地域コミュニティとの共存共栄
- ガバナンスの強化
ステークホルダーの皆様へ

当社の事業は、株主・投資家の皆様をはじめ、お客様、取引先、従業員、地域社会など、多くのステークホルダーの皆様に支えられて成り立っています。私たちは、こうした皆様と共に成長し続ける企業でありたいと考えています。
投資家の皆様から得られる知見や、お客様から寄せられるご意見、地域の方々から得られる情報など、多様な声を真摯に受け止め、吸収しながら、それらを糧に一体となって成長していきたいと考えています。経済的な成功はもちろん重要ですが、それだけを追い求めるのではなく、ステークホルダーの皆様との信頼関係をしっかりと意識しながら愛される企業になりたいと思っています。
私自身、当社が日本にとって経済的にも社会的にも必要とされる企業でありたいと強く願っています。そして、日本にとって重要であればグローバル市場でも価値ある存在になれると信じています。このような未来を実現するためにも、当社の想いや価値観、ビジョンを正しくお伝えし、ステークホルダーの皆様にご理解と信頼をいただくことが重要であると考えています。
これからも、私たちJX金属はともに成長する「未来」をステークホルダーの皆様と共有しながら、その実現に向けて真摯に取り組んでまいります。今後とも、変わらぬご支援とご鞭撻を賜りますようお願い申し上げます。