ネイチャーポジティブ

当社グループでは、自然環境の保全にとどまらず、地球上の生態系の損失を止め、回復軌道に乗せる「ネイチャーポジティブ」を実現するためのさまざまな取り組みを推進しています。

ネイチャーポジティブビジョン

これまでの取り組みを捉え直し、ネイチャーポジティブ達成に向けた取り組みとして一層推進していくための道しるべとして、下記ネイチャーポジティブビジョンとロードマップを作成しています。

ネイチャーポジティブビジョン

当社グループの事業活動が自然に依存しインパクトを与えていることを認識し、ネガティブなインパクトの低減とポジティブなインパクトの創出につなげる取り組みを推進します。

  1. 1.当社グループの事業活動と自然の関係を把握し、事業活動の改善に向けて順応的に対応します
  2. 2.ネイチャーポジティブに資する脱炭素・循環型社会の形成に向けた取り組みを積極的に推進します
  3. 3.当社グループの自然関連情報を適切に開示します
  4. 4.ステークホルダーとの対話と協働により、生物多様性の保全と回復に向けた取り組みを推進します

事業活動と自然の関係

ネイチャーポジティブ達成に向けた取り組みを具体的に推進していくために、当社グループの事業活動について、自然の影響·依存関係を既存のツール(ENCORE)を活用した上で定性的に把握・評価しています。その結果から、当社グループの事業活動は、直接操業およびサプライチェーンにおける土地の使用や取水・排水といった活動において自然に影響を与えるとともに生態系サービスに依存していることを認識しました。
また、当社が継続的に実施している森林整備活動等との連動性も考慮し、関係性の大きさを総合的に評価したところ、当社グループの社有地で広大な面積を占める休廃止鉱山の管理業務を通じた自然との関係性が最も大きいと判断しました。
今後は、休廃止鉱山をメインフィールドにネイチャーポジティブ達成に向けた活動を推進するとともに、拠点の位置情報に関連するデータ等を用いた事業活動と自然関連課題の特定、目標設定などに取り組み、TNFD最終提言に沿って適切に情報開示を行います。

  • ENCORE(Exploring Natural Capital Opportunities, Risks and Exposure):国連環境計画世界自然保全モニタリングセンター(UNEP-WCMC)等が開発した依存関係および影響の概要を可視化するツール

JX金属グループとしてのネイチャーポジティブ達成に向けたロードマップ

2024年度に休廃止鉱山における生態系保全・回復の取り組みモデルを構築しました。その上で、事業活動全体へと取り組みを拡大することでTNFD等の情報開示フレームワークに沿った情報開示を行います。さらには、「サステナブルカッパー·ビジョン」と「脱炭素ビジョン」での取り組みと連携し、リサイクル原料の拡大を図ることにより、低CFPかつ自然環境への負荷の少ない素材の提供を目指します。これらの活動を通じ、素材のサプライチェーン全体での自然へのインパクトのマネジメントに取り組んでまいります。

JX金属グループとしてのネイチャーポジティブ達成に向けたロードマップ

休廃止鉱山における生態系保全・再生の取り組みの強化

ネイチャーポジティブ達成に資する自然資産の再評価

これまで、鉱山の操業を通じて日本経済を支える一方で、自社の事業活動が生態系に影響を与えていたことを認識しており、この課題意識から、当社グループは、操業時から積極的な環境対策に取り組んできました。休廃止後の鉱山においても坑廃水処理等の適切な管理に加え、森林整備活動などを行ってきました。

植生が回復した日立鉱山周辺の森林
豊羽鉱山周辺の紅葉風景

生態系の保全・回復が国際的な課題となっている中で、当社グループは、休廃止鉱山の自然資本としてのポテンシャルを見直し、従来通りの鉱廃水処理や森林整備活動といった維持管理を行うだけでなく、生物多様性保全の観点での植生管理や自然の有する機能を活かした地域課題解決への貢献等の積極的な取り組みを推進します。
当社はこの活動を通じ、休廃止鉱山を、生態系の回復を図りながら地域や社会のネイチャーポジティブに資する“ポジティブレガシー”と再定義し、施策展開を進めていきます。

休廃止鉱山におけるこれまでの歩みとこれから

ネイチャーポジティブ達成に向けたロードマップ

これまでの取り組みは継続しながら、ネイチャーポジティブの達成に向けて、まずはモデルサイトとして日立鉱山と吉野鉱山を対象として、休廃止鉱山が位置する流域の生態系や生態系サービスの評価に取り組みます。モデルサイトでの取り組みを踏まえて、休廃止鉱山の生態系が目指すべき姿とそこに向けた取り組み内容を体系的に取りまとめた生態系管理計画を策定し、休廃止鉱山における生態系の管理に本格的に着手します。
そして、将来的には、地域のステークホルダーとの協働のもと、休廃止鉱山の生態系サービスを活用することで、地域課題解決への貢献へと取り組みをスケールアップさせていきます。並行して、モデルサイトでの取り組みを各鉱山へと拡大することで、より自然環境を活かしたポジティブなインパクトの創出を目指します。

休廃止鉱山におけるネイチャーポジティブ達成に向けたロードマップ

具体的な取り組み

南陽市「JX金属 龍樹の森づくり」

「JX金属・龍樹の森」づくり事業は、日本鉱業(当社の旧名称)がかつて同市吉野地区で操業していた縁から、当社が社会貢献活動の一環として同市の森づくり事業を支援することになったもので、地域の自然環境の保全と地域住民との交流促進を目的として2009年度より長年にわたり支援を継続してきました。
こうした「JX金属・龍樹の森」づくりの取り組みが評価され、2025年度に山形県 南陽市より表彰を受けました。
このたびの表彰は、そうした継続的な活動が地域社会に根差したものであり、環境/地域社会と共生する姿勢が高く評価された結果であると受け止めています。今後も、地域とともに歩む企業として、「JX金属・龍樹の森」づくりをはじめとした社会貢献活動を継続・発展させてまいります。

龍樹の森から望む置賜盆地

参照:https://www.jx-nmm.com/information/2025/20250603_1.html

生物多様性の観点での休廃止鉱山の評価

休廃止鉱山の生態系は、主に、森林や草地といった陸域生態系、沢や河川といった水域生態系から構成されています。ネイチャーポジティブ達成に向けて、まずは、位置·面積情報をもとに、植生の観点から陸域生態系の状態を分析しました。
更に2024年度には、一部の休廃止鉱山の近隣河川の環境DNA調査や植生調査、鳥類調査等を実施し、生態系の把握に務めています。
吉野鉱山における直近の調査では、かつては、林業、農業、鉱山の操業に関連して利用がされていた植林地や農地が遷移し、アカマツ植林、オニグルミ群落、カラマツ植林といった樹林地に加え、ススキ群落、ヨシ群落といった中性~湿性草地、ため池やシックナー等の止水環境など、多様な環境がモザイク状に分布していることが特徴です。
針葉樹林を好む種(キバシリ)や広葉樹林を好む種(アオバト)、果実・種子食(アオバト)や昆虫食(オオアカゲラ、オオムシクイなど)など、多様な環境を反映する鳥類相が確認されました。また、代表的な里山の指標種とされる「サシバ(タカ目タカ科サシバ属)」が営巣するなど、東北地方の希少性の高い動植物を育む良好な生育・生息環境となっています。

オオルリ(スズメ目ヒタキ科オオルリ属)
アオバト(ハト目ハト科アオバト属)
サシバ(タカ目タカ科サシバ属)
環境省RDB絶滅危惧Ⅱ類、山形県RDB絶滅危惧Ⅰ類

事業活動における自然関連リスク・機会の評価

当社グループと自然との関連性については、既に事業を終えている休廃止鉱山だけでなく、将来にわたって継続性の高い事業領域についても、リスクの把握・回避・最小化を目指す必要があります。しかし、その評価法として国際標準と言えるものは未だ存在しません。そこで我々はLife Cycle Assessment(LCA)の手法を使った評価法(LIME3)を試験的に採用し、事業活動の自然への影響を評価しました。

銅製錬事業の生物多様性への影響のLIME3を用いた評価

当社の事業活動のうち、利用するエネルギーおよび資源量が最も多い、銅の製錬事業について、グローバルスケールのLCAを実現する環境影響評価手法であるLIME3 (Life Cycle Impact Assessment Method based on Endpoint)を用いて、生物多様性などへの影響について、試験的な評価を実施しました。

  • 伊坪徳宏・稲葉敦 (2018): LIME3 グローバルスケールの LCA を実現する環境影響評価手法, 丸善出版


一例として、海外の鉱山での原料採掘・生産から、国内での銅製錬・リサイクルのプロセスを含む、現行の電気銅の製造プロセス全体を評価対象とした場合と、海外の鉱山での原料採掘を含まない、リサイクル原料からの電気銅製造に関連するプロセスのみを抽出して評価した場合について、それぞれ電気銅1 kgあたりの生物多様性への影響を比較しました。

電気銅1kgを生産する際の生物多様性への影響(社内試算結果)
  • EINES:Expected Increase in Number of Extinct Species

リサイクルの方が、より生物多様性への影響が小さいことが分かります。また、より詳細な解析により、銅精鉱の生産に伴う温暖化ガスの排出が最も大きな要因であると推測されました。
この評価結果は、当社が2040年の実現を目指しているリサイクル率50%(2023年度実績約25%)の実現が、事業活動における自然関連リスク(生物多様性への影響)の低減策として有効であることを示すものです。また、本評価結果をさらに深く解析することで、自然関連リスクのホットスポットをより明確にし、効果的な施策を立案・実施することを可能にすると期待されます。

内閣府 研究開発とSociety5.0との橋渡しプログラム(BRIDGE)

「金融/投資機関による自然関連情報開示促進と国際標準化を前提としたネイチャーフットプリントの開発と実証事業」への参画
当社は2024年より、早稲田大学伊坪教授を中心とする「金融/投資機関による自然関連情報開示促進と国際標準化を前提としたネイチャーフットプリントの開発と実証事業」のうち、「ネイチャーフットプリントを用いた金融/投資機関における活用のための実証事業」に参画しています。従来のLCA評価では、生物多様性が重視されてきましたが、本プログラムでは、これに加えて生態系サービス(自然がもたらす恵み)に関する評価手法を構築します。また、その成果を企業が実際に利用して、自社の事業活動を評価・開示し、金融機関などがその評価結果を、投資活動に活用することを目指しています。
本プログラムには日本を代表する複数の企業が、多様な業界から参加していますが、当社は銅製錬事業者として唯一の参画企業です。当社は業界をリードしつつ、本取り組みを通じて、サプライチェーン上の上流や下流の企業と協力し、生態系サービスや生物多様性への影響の可視化や低減を目指すものです。

その他環境保全の取り組み

当社グループは、日々の事業活動が自然環境や生態系の恵みに支えられていることを認識し、自主的な環境保全活動に取り組みます。

水資源の保全

当社グループの事業活動においては、製錬所での冷却水(主に海水)などとして多くの水を使用しています。各拠点等では水使用量を適切に把握し、削減や再利用することで水資源の有効活用に努めています。各製造拠点では、法律や条例の排出基準よりも厳しい自主基準を設けて、基準値超過を起こさないよう適切に操業管理をしています。

自社工場の水リスク評価

当社グループでは、水不足、水質汚濁、気候変動に関連した洪水などの水リスクが各拠点にどのような影響を及ぼすかを評価・確認しています。水リスクを評価するツールとして、世界資源研究所(WRI)が提供している水リスク評価ツール「Aqueduct Water Risk Atlas」を用いてどのような水リスクがあるのか特定しています。2024年度は国内29拠点、国外17拠点を対象に調査を行うとともに、水管理に関するアンケート調査を併せて実施しました。その結果、水リスクが高いと評価された拠点はありませんでした。

化学物質の適正管理

当社グループでは、化学物質管理基準を自主的に定め、使用を管理することにより、その有害性の低減に努めています。また、グリーン調達ガイドラインにおいても製造工程および資機材に含有してはならない物質を明確に示しており、サプライヤーに対して周知しています。さらに、安全性情報について、お客様をはじめ製品に関わるすべての方に提供することに努めています。

PCB含有機器などの無害化処理

当社グループでは、低濃度PCB処理事業を通じて、有害廃棄物を無害化することで環境保全に貢献しています。
当社グループ所有の高濃度PCB機器については、中間貯蔵・環境安全事業(株)における処理を進め、期限内に処理を完了しています。また、低濃度PCB機器についても、JX金属苫小牧ケミカル(株)をはじめとする低濃度PCB処理認定業者による処理を計画的に進めており、法定期限である2026年度末までに処理完了の予定です。

  • PCB(ポリ塩化ビフェニル):電気絶縁性が優れていることから、主としてトランス(変圧器)、コンデンサ(蓄電器)等の絶縁油や感圧複写機等に使用されていたが、その有害性から現在は新たな製造・輸入が禁止されている化合物。

休廃止鉱山の管理業務

JX金属エコマネジメント(株)七戸事業所 下の沢堆積場

当社グループは1905年の創業以来、全国各地で鉱山を操業し、非鉄金属などの安定供給と日本の経済発展に貢献してきました。しかし、国内ではそのほとんどが鉱量枯渇に伴って操業を停止しており、現在では休廃止鉱山として坑廃水処理などを行い、自然環境の維持・保全を図っています。
当社が所管する休廃止鉱山については、JX金属エコマネジメント(株)が管理を担っています。主な業務は、坑廃水の無害化と、堆積場や坑道などの維持・保全です。坑廃水は、雨水などが鉱山に残る鉱石や堆積場の捨石・鉱さいなどに接触することによって、金属を含む強酸性となるため、1日たりとも休むことなく処理を行う必要があります。また、堆積場については、近年の線状降水帯による豪雨や大規模地震に対応するための工事を進めています。こうした休廃止鉱山の管理により、自然環境の保全に努めています。