資源循環

当社グループでは、限りある資源から、多様な製品を無駄なく、効率的に開発・生産するとともに、リサイクルを推進し、環境負荷を低減することを通じて、サプライチェーン全体での資源循環の達成を目指しています。

サステナブルカッパー・ビジョン

当社グループは2022年8月、「サステナブルカッパー·ビジョン」を策定しました。これは、銅がカーボンニュートラルの実現に不可欠な脱炭素資源であることを改めて認識するとともに、サステナブルな銅の供給とその進化に向けた施策を示したものです。

2つの使命を実現する「グリーンハイブリッド製錬」

当社は「グリーンハイブリッド製錬」により銅製品を供給。銅精鉱とスクラップの両方を原料として活用でき、銅精鉱自らが発する熱を使いリサイクル原料を溶解することで化石燃料がほぼ不要となります。

「グリーンハイブリッド製錬」は、環境省、経済産業省、経団連により創設された循環経済パートナーシップが発行する「注目事例集(2022)」において、日本の循環経済の取り組みのうち、特に注目度の高い事例26件の一つとして選定されています。

グリーンハイブリッド製錬の図

サステナブルカッパーの進化と普及に向けた4つの施策

当社は「グリーンハイブリッド製錬」により銅製品を供給。銅精鉱とスクラップの両方を原料として活用でき、銅精鉱自らが発する熱を使いリサイクル原料を溶解することで化石燃料がほぼ不要となります。

サステナブルカッパーの進化と普及に向けた4つの施策の図

CFPの削減

ローターセイルを設置した鉱硫船「KORYU号」

当社グループの鉱石・硫酸の運送を担う鉱硫船「KORYU号」について、資源メジャーのBHP社、風力推進補助装置メーカーのノースパワー社と共同で、ローターセイルの搭載を進める脱炭素プロジェクトを推進しています。ローターセイルは、船体上の回転する円柱によって発生する圧力差を揚力へ変換するマグヌス効果を利用した船舶推進機構の一種で、燃料消費量低減により約5%のCO2排出量削減が見込めます。
2024年7月、ローターセイルの設置が完了し、航海を開始しました。今後、燃料の削減効果の検証を行うとともに、さらなるCO₂排出量削減効果を検討してまいります。

リサイクル原料比率の向上

グリーンハイブリッド製錬のロードマップ

当社の銅製錬プロセスである自溶炉法は、原料である銅精鉱の反応熱を原料自身の溶解に効率よく使用するだけでなく、余剰となる反応熱を利用してリサイクル原料を溶解することができるため、化石燃料等を用いる必要がありません。そこで、「持続可能な鉱物資源開発・生産」と「リサイクル」の最適な組み合わせを追求し、2040年にリサイクル原料比率(原料投入比率もしくは製品中の含有比率)50%以上を目指す「グリーンハイブリッド製錬」を推進しています。具体的な課題とその対応は右記の通りです。

責任ある調達とその他施策の推進

JX金属製錬(株)の佐賀関製錬所と日立工場は、責任ある生産活動を推進し、銅業界のグリーントランジションへの取り組みを示す信頼性の高い保証の枠組みである「The Copper Mark認証」を、2022年12月、日本国内で初めて取得しました。
The Copper Markは、2019年に設立された認証制度で、環境、人権、コミュニティ、ガバナンスなど32項目にわたる幅広い基準を遵守していることが求められます。両工場では今後も継続的にThe Copper Markで定められた各種基準の達成状況に関する評価を受ける予定です。
また、当社が一部権益を保有するカセロネス銅鉱山(チリ)においても、2023年10月、The Copper Mark認証を取得しました。これを以て、すべての権益保有銅鉱山と銅製錬・電解精製工場で認証を取得したこととなります。国際的なESGへの要請が高まる中、持続可能な事業の競争力強化に資するものとして取り組みを続けていきます。

Green Enabling Partnershipの形成

Green Enabling Partnershipの展開イメージ

サステナブルカッパーの普及に向けて協働いただける企業等と「Green Enabling Partnership(GEP)」を形成し、脱炭素社会・循環型社会への移行を加速させ、パートナーとの製品・スクラップ回収、原料の再利用、共同技術開発の促進等を進めていきます。GEPを通じた多様なステークホルダーとのコミュニケーション、ニーズのヒアリングの結果として、次ページのような取り組みを実施しています。

リサイクルを促進するための当社の試み

お客様との資源循環の共創

資源循環を促進するためには、当社が個社としての取り組みを推進するだけでなく、銅を利用する製品のメーカーをはじめとしたお客様や、最終製品の消費者の方々と協力して、ユーザーにとっても魅力的で信頼性の高い新しいリサイクルスキームを提案し、企業活動と資源循環を両立することが必要です。そこで当社は、お客様と資源循環を共創することを目指して、新たな銅の供給スキームを提案しました。

当社の提案する新しいリサイクルスキーム

2024年1月、マスバランス方式を用いた2種類の100%リサイクル電気銅「PCL100/mb(Partnered Closed Loop 100% mass balance method)」と「MR100/mb(Mixed Recycle100% mass balance method)」 を2024年度中に上市することを発表しました。
この新たなスキームの1つ「PCL100/mb(Partnered Closed Loop 100% mass balance method)」では、お客様(図中ではA社)が回収した使用済み製品や、お客様の工場で発生した工程スクラップをリサイクル原料とし、その由来を保証した100%リサイクル電気銅としてお返しします。
実際の銅製錬プロセスにおいてはA社からのリサイクル原料と、他のリサイクル原料や銅精鉱が混合されて製錬処理されるので、A社由来のリサイクル原料を起源とした銅のみを抽出することはできません。しかし、マスバランス方式を利用することで、リサイクル原料と電気銅を紐づけることが可能になります。この時、当社はA社からのリサイクル原料に含まれる銅の量を正確に分析し、その量を超えない量の電気銅を、A社由来の銅として厳正に管理します。2024年7月には、この管理の体制(CoC管理体制)について、第三者による妥当性の確認を完了しています。
他方、MR100/mbの場合は、原料の由来と電気銅の紐づけは個別には行いません。当社が市中から集めたリサイクル原料とそれに含まれる銅量の管理の下、マスバランス方式を用いてリサイクル100%の電気銅として供給します。

新しいリサイクルスキームの図
リサイクル電気銅のカーボンフットプリント(CFP)
電気銅CFPとその内訳

当社では2023年にCFPの計算値について第三者認証を取得するなど、さまざまな製品群についてCFPの算定に取り組んでいます。当社のCFP算定では、リサイクル電気銅のCFPは非リサイクル品の約25%程度に留まることが分かりました。これは、主として原料のCFPが大きく異なるためです。このことから、当社ではリサイクル比率をさらに高めていくこと、および銅鉱石から調達される銅精鉱とその輸送による排出を少なくすることが重要であると判断し、グリーンハイブリッド製錬、Green Enabling Partnershipを通じた鉱山会社との連携、および銅精鉱の輸送による排出の低減に優先的に取り組んでいます。

お客様と目指すスパイラルモデル

リサイクル比率の向上やマスバランス方式の活用の組み合わせは、さまざまなメリットを生み出す可能性があります。例えばPCL100/mbは、当社がリサイクル原料をお客様のご協力のもと、安定的に確保することに貢献します。また、お客様(銅の需要家)にとっても、リサイクル電気銅が従来と大きく変わらない品質・コストで入手可能となる可能性や、原料トレーサビリティの向上、調達資材のCFPの低減といったメリットがあります。また、PCL100/mbの原料となる自社製の廃製品や工程スクラップの回収に力を入れていただくことは、リサイクル電気銅の調達が容易になるだけでなく、社会全体の資源循環を促進することに貢献する可能性があります。このように、当社の提案する100%リサイクル電気銅の供給スキームは、お客様と当社との相互作用によりさまざまなメリットを提供し、Win-Winな関係を育むものです。
当社は、本商品(PCL100/mb)の社会実装を目指す活動を「Cu again(シーユー アゲイン)」プロジェクトとして始動し、さまざまな業界の方々との議論を進めています。

お客様と目指すスパイラルモデル
「Cu again」の意匠
リサイクル原料集荷(静脈領域)の強化に向けた取り組み

当社は、サステナブルカッパー・ビジョンの実現に向け、リサイクル原料の増集荷・増処理体制の構築を進めています。リサイクル原料集荷体制の強化のために、2022年8月にカナダのリサイクラーであるeCycle Solutions Inc.の株式を取得、2024年4月には三菱商事(株)(以下、三菱商事)とともに、廃家電や廃電子機器、廃車載用リチウムイオン電池等の再利用を推進する目的でJX金属サーキュラーソリューションズ(株)を新設し、同年7月に事業を開始しました。三菱商事の持つ産業横断型のグローバルなネットワークや知見を活用することで、リサイクル原料集荷やサプライチェーン全体の連携を強化し、銅やレアメタル等の非鉄金属資源のリサイクルの拡大を目指します。

TOPICS
マスバランス方式の考え方

マスバランス方式とは、特性·由来の異なる原料が製造工程の途中で混合され、原料を区別できない製品が製造される場合に、ある特性·由来を持つ原料の投入比率に応じて製品の一部にその特性を割り当てる手法です。

マスバランスの例

マスバランスの例の図

その他の資源循環への取り組み

車載用リチウムイオン電池(LiB)の クローズドループ・リサイクル

LiBリサイクルのベンチスケール設備

LiBに使用されるニッケル、コバルト、リチウム等のレアメタルは、我が国では産出されず特定の国・地域に偏在しており、これら資源の利用・確保に係る環境負荷やサプライチェーンリスクの低減が重大な社会課題となっています。
当社は2020年に日立事業所に設置した連続式小型試験装置(ベンチスケール)で、使用済みの車載用LiBからレアメタルを回収、再び車載用LiBの原料として使用する「クローズドループ・リサイクル」プロセスを確立しました。現在、JX金属サーキュラーソリューションズ敦賀(株)にスケールアップしたプロセスを導入、実証試験操業中です。高純度硫酸ニッケル回収設備(2021年稼働開始)、高純度硫酸コバルト回収設備(同2022 年)に続き、2023年4月より高純度炭酸リチウム回収設備も稼働を開始しました。今後、高純度のリサイクル出金属塩をサプライチェーンへ供用し、クローズドループ・リサイクルを実証してまいります。
また、2022年には、当社の「クローズドループ・リサイクルによる車載LiB再資源化」の取り組みが国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)のグリーンイノベーション基金に採択されました。本基金を活用し「クローズドループ・リサイクル」の社会実装に向け、大学や公的研究機関と連携してさらなる技術開発を進めています。これにより、LiBのサプライチェーン強化とサーキュラーエコノミー(循環型経済)構築に資することを目指します。

車載用リチウムイオン電池リサイクル研究開発設備の竣工(ドイツ)

竣工式での研究開発設備の見学会の様子

当社グループのJX Metals Circular Solutions Europe GmbHは、TANIOBIS GmbHのゴスラー市内の拠点に、車載用LiBリサイクルに関する研究開発設備を設立しました。当設備は当社グループが培った湿式プロセス技術をベースとしたものであり、ドイツ連邦経済・気候保護省(BMWK)の支援のもと、フォルクスワーゲングループをはじめとするドイツ国内の企業・研究機関・学術機関が参画するLiBリサイクル技術の研究開発のためのコンソーシアム「HVBatCycle」の活動の一環として設置されたものです。当設備では、フォルクスワーゲングループから提供される電池粉を用いて、高品質な電池原料を高収率で回収するためのプロセスの最適化に取り組んでいきます。

バーゼル法に基づく再生利用等事業者の認定取得

JX金属製錬(株)佐賀関製錬所は、2023年8月23日付で「特定有害廃棄物等の輸出入等の規制に関する法律(バーゼル法)」に基づく再生利用等事業者としての認定を受けました。
バーゼル法は、廃棄物の国境を越える移動や処分の規制についての国際的な枠組みであるバーゼル条約の的確かつ円滑な実施を確保するためのルールを定めた法律です。再生利用等事業者は、廃棄物の再生利用等を的確かつ環境保全上適正に行える事業者が認定されるものであり、この度の認定取得は佐賀関製錬所における金属・リサイクル事業の取り組みが認定の要件を満たすと評価されたものです。

E-waste適正処理と再資源化に関するワークショップを共同開催(ベトナム)

ベトナム・ハノイ市内で行われたワークショップ

2023年12月15日、当社は、ベトナム天然資源環境省(MONRE)メディアセンターと「E-wasteの現状とリサイクル処理システム構築に向けたソリューション」と題したワークショップを共同開催しました。本ワークショップは、日本の環境省による「我が国循環産業の海外展開事業化促進業務」対象事業として当社が申請し採択された「ハノイ市またはホーチミン市でのE-waste適正処理と日本での金属類再資源化検討事業」の一環として実施しました。当日はMONREに加え、ハノイ工科大学、ベトナム廃棄物リサイクル協会、ベトナム電子事業者協会といったベトナムを代表する産学官関係者が参加したほか、日本の環境省もオンラインで参加しました。
ワークショップでは、当社側からは長年培った製錬・リサイクル事業の運営ノウハウ提供や技術支援による環境負荷軽減の可能性、金属資源循環実現への貢献について発表しました。ベトナム側からは同国の環境保護法やE-waste収集処理に関するルール、E-wasteの発生と処理の現状と将来性等についてプレゼンテーションがありました。後半は、各発表を踏まえ、ベトナムにおけるE-wasteリサイクルの事業化に向けた課題等について活発な意見交換が行われました。

ゼロエミッションの取り組み

環境事業においては、産業廃棄物を処理する際に発生する焼却灰や焼却残渣などの二次廃棄物を最終処分場に埋め立てることが一般的に行われています。当社グループでは「捨てない、埋めない」をスローガンとし、環境事業とリサイクル事業を組み合わせることで、これら二次廃棄物をリサイクルし、その中に含まれる有価金属を再資源化するシステムを構築・運用することで「ゼロエミッション」に向けて取り組んでいます。環境事業に携わる関係会社と金属・リサイクル事業拠点が連携し、一体となって資源循環型社会の実現に向けて取り組んでいます。