
2024年度 社外取締役座談会

2024年6月11日、JX金属グループの持続的成長に向けての課題、ガバナンス体制の強化などをテーマに、社外取締役5名と村山会長による座談会を実施しました。
- A
- 社外取締役
- 伊藤 元重
1979年、米ロチェスター大学大学院で経済学博士号取得。東京大学大学院経済学研究科教授、総合研究開発機構理事長、学習院大学国際社会科学部教授等を経て、2016年6月より東京大学名誉教授。2013年より6年間にわたり経済財政諮問会議の議員を務める。2022年4月より当社社外取締役。
- B
- 社外取締役(監査等委員)
- 二宮 雅也
1974年、日本火災海上保険株式会社入社。日本興亜損害保険株式会社代表取締役社長社長執行役員、損保ジャパン日本興亜ホールディングス株式会社(現SOMPOホールディングス株式会社)代表取締役会長等を歴任。2018年、一般財団法人日本民間公益活動連携機構理事長(現任)。2022年、SOMPOホールディングス株式会社特別顧問(現任)。2023年6月より当社社外取締役。
- C
- 社外取締役
- 所 千晴
2004年、早稲田大学理工学部助手に就任。2015年、早稲田大学理工学術院教授(現任)。2016年、東京大学生産技術研究所特任教授(現任)。2021年、東京大学大学院工学系研究科教授(現任)。2021年4月より当社社外取締役。2022年9月、早稲田大学高等研究所副所長、カーボンニュートラル社会研究教育センター副所長に就任(現任)。
- D
- JX金属株式会社 代表取締役会長
- 村山 誠一
- E
- 社外取締役(監査等委員)
- 川口 里香
1997年、弁護士登録。第一東京弁護士会労働法制委員会委員(現任)。第一東京弁護士会副会長、関東弁護士会連合会常務理事等を歴任。2021年より東京家庭裁判所家事調停委員、第一東京弁護士会男女共同参画推進本部本部長代行、日本弁護士連合会男女共同参画推進本部委員、公益財団法人日本フィランソロピー協会監事(現任)。2023年6月より当社社外取締役。
- F
- 社外取締役(監査等委員)
- 佐久間 総一郎
1978年、新日本製鐵株式会社(現日本製鉄株式会社)入社。同社代表取締役副社長等を歴任。現在、日鉄ソリューションズ株式会社顧問に加え、内閣府公益認定等委員会委員長、一般社団法人日本国際紛争解決センター理事長、一般財団法人地球産業文化研究所理事長、OECD-BIACの責任ある企業行動委員会副委員長等を務めている。2022年6月より当社社外取締役。
株式上場に向けた取り組みの進展について

- 村山:
- 2023年6月に5名体制になり、ちょうど1年が経過しました。株式上場に向けた準備をはじめ、2023年度は当社にとって激動の年でした。そのような時期に、社外取締役として皆様から助言をいただけることは大変心強く、感謝しております。この1年間の当社の動きを皆様はどのように評価されておられるでしょうか。
- 伊藤:
- 上場への準備を進められる中、当社の競争力の源泉を改めて確認できたという意味で、この1年間は非常に有意義だったのではないでしょうか。
- 川口:
- 1年間、事業ポートフォリオの見直しも含め、抜本的な取り組みが着々と進められました。皆さんが一致団結してそれぞれの立場で最大限の努力をしておられることを目の当たりにし、本当に頭が下がる思いです。
- 佐久間:
- 特に売上よりも収益ということで、資源事業の中核であったカセロネス銅鉱山を連結対象から外すという決断もありました。一方で、先端的な金属材料を収益の柱にしていくんだという道筋を描き、大きな構造改革が進んでいると見ています。
- 二宮:
- 国が抱える課題、いわゆる経済安全保障や持続的な成長の観点から、当社の役割を明確に認識して、自信を持って取り組んでいるなと感じます。そして、新たな発想や挑戦することを評価し、イノベーションが起こる企業文化を醸成することに対して非常に注力されていますね。
- 所:
- 上場という大きなイベントに向けて、この1年間は当社のあるべき姿に向けた議論を重ねることができたと思います。現状で考えられるベストに近い選択をされて、舵を切っておられるのではないかと思います。
成長戦略とリスクマネジメントについて
- 村山:
- 社会や市場環境の変化はますます激しさを増していると感じます。当社として、リスクと機会をどのように捉え、対応していくべきでしょうか。
- 所:
- 当社の場合、ベース事業とフォーカス事業のバランスがとても大切です。上場を目指すタイミングではベストなバランスを選択されていると思いますが、将来にわたってこのバランスが最適だとは限らないので、フレキシブルに対応できる体制が必要だと感じています。
- 伊藤:
- 仰る通り、先行きが不透明な時代にあって、技術が置き換わるかもしれないし、業界自身も置き換わるかもしれない、色々な可能性が考えられます。そういった変化にいかに素早く対応できるかという対応力が今後求められるでしょう。

- 二宮:
- 今、企業の存在価値というものに対して、社会からの要請がいろいろな形で強く出てきており、特に欧州においては規制として導入されてきています。そういった規制の潮流を注視しながら、先取りして対応していくことが必要です。
- 佐久間:
- ガバナンスという観点では、2023年度から監査等委員会設置会社になって、社外取締役の数も増え、指名・報酬諮問委員会も立ち上がりました。上場企業にふさわしい体制は十分にできあがっていると思いますので、あとはそれが効果的に機能するのかどうか、これから試されていくのだろうと思います。
- 二宮:
- リスクの視点ですと、当社の主力製品である半導体用スパッタリングターゲットや圧延銅箔に続く製品をどうやって生み出すのか、それが出てこないリスクっていうのは、やっぱりあるわけですよね。これについては、スタートアップへの出資やM&Aなど他社の持つ技術力へのアプローチ、オープンイノベーションといった策を強化していかなくてはならないでしょう。
- 佐久間:
- この先、世の中がどのように変化するかは分かりませんけれども、逆に分かっているのは、コストプッシュ要因は多くなり、競争が激化するだろうということです。コストは上がって販売価格は下がるという2重のパンチを受ける可能性がますます高まるということです。では、どうしたらいいのかっていうと、自分たちができることをやるしかない。つまり製造現場ではコストを下げる、開発部門は技術の先進性を確保する、営業部門は勇気を持って価格政策を断行する。こういうことをやり切っていかなくてはいけないということだと思います。

- 川口:
- コストに関連した話ですと、2024年4月から運送業の時間外労働の上限規制が適用となりました。当社も当然のことながら素材が動き、製品が動くということで、輸送に携わる人たちの労働力、それに伴うコストは無視できないところです。特にわが国は、運輸業界の構造改革がなかなか進んでいませんので、今後どのように輸送コストに関するリスクに対応していくかは非常に重要です。
- 伊藤:
- いずれにしても世界経済やグローバルな流れが大きく変化していることは間違いないわけで、そういった大きな変化を成長の糧にするという視点がより重要になってきますね。例えば、米中が対立することは望ましいことではありませんが、それによってサプライチェーンが変わり、当社の持っている価値がさらに高められる可能性が出てくるわけです。変化が起こった時に何ができるかということを、常に考えていることが重要だということです。
- 所:
- そういった意味で、当社にとって間違いなく機会となるのは、カーボンニュートラル、サーキュラーエコノミーだと思います。カーボンニュートラルは電化、デジタル化、集約化、高機能化、小型化、どの側面をとっても当社の技術力が活かせる分野です。サーキュラーエコノミーに関しても、これまでのリニアエコノミーであれば素材を先端材料に加工するという一方通行でしたが、循環サイクルをつくることができるということは当社の大きな強みになるはずです。
グリーントランスフォーメーション(GX)の取り組みについて
- 村山:
- 当社は、「脱炭素、資源循環、ネイチャーポジティブ」という3本柱で環境への取り組みを推進しています。これらの施策については、どのように評価されておられるでしょうか。
- 二宮:
- サステナブルカッパー・ビジョンやグリーン・イネーブリング・パートナーシップといった、いわゆる銅が社会に対して果たしていく役割をしっかり伝える、そういった枠組みをつくられたということは非常に意義のあることだと思います。例えば、スコープ3への対応は多くの企業がその対応に困難を極めているわけですが、当社の技術が貢献できるということが周知されていけば、当社の製品をぜひ使いたいという大きな流れが生まれることでしょう。
- 佐久間:
- 私は、鉄鋼業界の出身なのでどうしても鉄と比べてしまうのですが、電動化社会において銅というのはその特性から経営とGXを両立し得る非常に恵まれた立ち位置にあると考えていまして、これも大きな当社の強みだと思っています。一方で、銅に対する世の中の理解がまだ進んでない。これは我々も含めた業界全体でもっと努力していく必要があるでしょう。
- 川口:
- 私も佐久間さんと同じことを考えていて、当社が取り組みの3本柱として掲げている「脱炭素、資源循環、ネイチャーポジティブ」は、他の業種だとそれぞれ別々に考えていかなくてはいけないところ、銅の場合は、事業を通じてこの3本柱を実現していけるという、とても恵まれたポジションにいると思います。ですから、上場を機にGXの最先端の取り組みをしているんだということを、一層力を入れて世の中に周知していただきたいですね。

- 所:
- 環境への取り組みにおいて、国内の同業他社の中で当社がリーダー的な存在になりつつあるということは間違いないと思います。ただ、「脱炭素、資源循環、ネイチャーポジティブ」という3つの分野というのは、1つを頑張ったら他にも好影響があるというような、必ずしも相互的な関係ではありません。それこそバランスに対する社会からの要請というのは刻々と変わると思いますので、この3つのバランスを当社としてどのように取っていくのか、しっかりとした軸を定量的に捉えなければいけないというフェーズに入っていると思います。
- 伊藤:
- 企業というのは、昔は雇用をつくって、利益を上げて、社会の富に貢献する、それが一番の存在意義でした。それに加えて今では、コミュニティの市民の一部として、環境問題をはじめ、人権問題だとか、いろんな問題に対してどういうスタンスを取るかということが重要になっています。だから難易度は高いかもしれませんが、そこをしっかりとやり切ることによって、大きなチャンスにもなり得る。そこがやっぱり大きなポイントかなと思います。
人的資本経営に向けた取り組みについて
- 村山:
- 持続的な成長の実現に向け、人材への投資をこれまで以上に積極的に進めています。当社の組織風土や人材育成に関する課題をお聞かせください。
- 所:
- 私は大学にいますから、こういう変化の時代の人材育成の難しさはよくわかります。イノベーションというのは、ちょっと枠をはみ出したようなところも含めて、新しい発想やアイデアが必要です。大きな会社で、技術の高い会社ほど同一性みたいなものがあって、枠の中にあることが強みだったりするので、なかなか難しいところはありますよね。枠からはみ出ることがいいという訳でもないので……。
- 川口:
- 組織風土に関して感じることは、やはり会社の沿革のせいなのか、事業部ごとの縦割りの印象を感じるということです。事業部ごとの人事交流をはじめ、改善に向けて取り組まれているということは伺っていますが、もっと交流を盛んにした方が、所さんが仰るようなイノベーションの契機にもなり得るんじゃないかなと思います。
- 二宮:
- ESGやSDGsを当たり前のこととして理解し、行動に移すことができる、そうした人材が基盤として必要でしょうね。常識を超えた新しい発想ができて、失敗を恐れず挑戦できる人材。非常にぜいたくな話ではありますけれども。

- 伊藤:
- 日本社会全体として過去20年、人的資本への投資というのは、非常に遅れてしまったのだろうと思います。そもそも賃金体系はほとんど変わっていませんし、色々な指標で見ても人材へのお金の使い方は、非常に限定されてきました。それは当社も例外ではないだろうと思います。逆に言うと、これからいろいろなことに取り組む上で人の部分がしっかりとできていないと、結局、絵に描いた餅になってしまう。そういった意味で、人的資本への投資について、しっかり考えるということが大事だと思います。
- 佐久間:
- 当社は高度なものづくりをしてきたメーカーですから、個々人それぞれは極めて科学的で合理的な思考ができる人たちの集団だと思います。ただ、そういった考え方が組織として発揮されなければならない。今は上に親会社があるということで、完全に主体的・独立的に動いているわけではありません。それが結局個々人にも反映されているような印象を感じています。これから上場企業になって独立を果たすと、より主体的に考えて行動するということが一層重要になってくるでしょうね。
JX金属グループに期待すること、自身の役割について
- 村山:
- それぞれ専門のお立場から貴重なご指摘をいただきありがとうございます。最後に、上場のその先も見据え、当社グループに対して期待することをひと言ずつお願いします。

- 佐久間:
- 当面は上場が大目標ですけれども、上場というのはあくまでスタートでしかない。当社の場合は、技術立脚、それに基づいて社会に貢献していく、これを地道にしっかりやっていくということが最も重要であると思います。私自身、似たような金属産業の出身なので課題は共通したものを感じています。私の実際の経験から積極的に助言していければと考えています。
- 二宮:
- 私も企業経営者として、コンプライアンスやガバナンス、サステナビリティの分野に関して、良かった点も悪かった点も含めて、これまでの知見に基づいた助言が可能であろうと思います。当社は伝統のある非常に重厚な企業なだけに、いい面もあれば課題となる点、両面があろうかと思います。そういった中で、私は異なる業界の企業人として、気が付いた点、疑問点も含めてお伝えをしていきたいと思います。
- 所:
- 私は技術的なところは資源循環を専門にしていますし、また大学におりますので、やはり長期的な視点に立った方向性みたいなものに対して、意見をさせていただくというのが役割かなと思っています。あるいは、先ほどの人材育成のテーマについても、アカデミアもうまく使っていただきながら当社の人材育成に寄与する、そうした点も期待いただいているのかなと思います。
- 川口:
- 会社は人でできていますので、人が辞めたくない会社、人が働き続けたい会社でなければ、存続することはできません。今は上場という一つの目標に向けて皆さんが一丸となって進んでいますけれども、これがいったん落ち着いたら、主体的に一人ひとりの社員が考えて実行できるような会社にしていかなければならないと思っています。会社の将来に対するビジョンや使命感に対して、課題としてフィードバックしていけるようなお手伝いができたらと思っています。
- 伊藤:
- 経済学者の世界では、鳥の目、虫の目、魚の目という表現が出てきます。鳥の目というのはマクロで今世界がどう動いているのかを見る目、虫の目は細部をしっかりと見ていく目、魚の目は潮の流れの変化を見る目です。社外取締役としては、ただ鳥の目だけで話をしていると、結局、経済の本を書いているような話になってしまうので、虫の目の議論を聞きながら、鳥の目の話をしていかないといけないと思っています。そして、もう一つの魚の目が重要で、今日の話にもあったように、いろいろなものが急激に動いているものですから、変化がどう起きているのか、それが企業の経営にどう影響するのか、ということについて、しっかり発言させていただきたいと考えています。
- 村山:
- 本日は社外からの視点で多くの新鮮な気付きをいただくことができました。真摯に受け止めた上で、今後の経営に活かしてまいります。これからも継続してご助言いただきたく思いますので、どうぞよろしくお願いします。