トップメッセージ
2025年3月の東証プライム市場上場から約1年、JX金属グループは「2040年長期ビジョン」の実現に向けた成長戦略の展開を加速してきました。先端材料を軸とする強靭な収益基盤の確立のため、着実に歩みを進めています。
上場から約1年、獲得した「手応え」と自社への「誇り」
株式市場上場からの1年間、株主、投資家をはじめとするステークホルダーの皆様にJX金属グループの実力をお見せしたいと強く意識してきました。逆にいえば、当社を正確に理解してもらえれば、相応の評価がいただける自信もありました。この1年を振り返ると、生成AIの普及によりデータセンター投資が世界的に加速し、半導体市場は前年比20%以上と大幅に成長し、情報通信インフラ関連市場も力強い拡大を示しました。その中で、当社製品の半導体用ターゲットや圧延銅箔、結晶材料などが脚光を浴び、半導体製造に不可欠なキーマテリアルとして存在感を示す機会が増えました。
「JX金属という会社は、先端材料で社会に貢献するグローバルトップ企業を目指すにふさわしいトップシェア製品を持っている」、また「それらを支える資源・製錬事業などサプライチェーンにも強みがある」、そして「これらによって独自の強いビジネスモデルを確立している」、そのような理解が大いに広がったのではないかと思います。株価も好調に推移し、現在の株価は、当社の中長期的成長に対する期待が織り込まれたものと受け止めています。ステークホルダーの期待に応えることはもちろん、期待を上回る成長を実現し、さらなる企業価値の向上を果たしていきたいと思っています。
また、このたびの上場では、社外だけでなく社内に与えた影響も非常に大きなものとなりました。当社は2002年9月の新日鉱ホールディングス株式会社設立に伴って上場を廃止し、以来、20年余り非上場企業として事業を行ってきました。そのため、自社の客観的な評価を認知することが難しい状況にありました。長期ビジョンを公表した2019年以降、技術立脚型企業への転換を方針に掲げ、装置産業型事業からの脱却、先端材料事業領域へのシフトを行ってきましたが、広く社会に向けて、自分たちの挑戦を知らしめる機会は十分ではなかったように感じています。
今回、IPO(新規株式公開)に踏み切った狙いの一つが社内、従業員に対する効果です。私は、当社が「社会から期待される会社」「ステークホルダーから高く評価される会社」であることを全従業員に知ってほしいと思っていました。株式公開をきっかけに、メディアでの報道、株式市場からの評価に接する機会が増え、従業員が自社の客観的な評価に触れることができるようになりました。それによって、従業員の間に、会社に対する自信と誇りが生まれ始めていることを感じています。これからが本番ではありますが、インナーの意識改革に関しても一定の成果が出始めていると評価しています。
変化の速い市場で、顧客よりも先に変化を見通す力を
現在の事業環境は、概ね私たちが想定した通りの方向に進んでいますが、需要拡大のスピードは予想以上に速く、これはおそらく半導体関連分野のすべてのプレーヤーが同様に感じているところだと思います。とりわけ、生成AI普及に伴うデータセンター投資の加速によって、光通信分野の結晶材料であるインジウムリン(InP)基板の需要が次元の異なるレベルで増大しています。当社が先端材料といわれる分野に参入してから45年ほどが経過しましたが、これほどの急速な拡大は経験したことがありません。このような環境下では、常に市場ニーズを先取りし、即座に開発・投資といった具体的な行動を起こさなければ、ビジネスの機会を逃しかねないという緊張感を常に持っています。
加えて、私たち材料メーカーの立場も変化しています。かつては、顧客から求められる仕様を満たす製品を開発し、価格競争力を確保することが主な役割でした。しかし現在は、顧客が認識している技術価値を超えて、その技術が今後どのように進化し、どのような社会的価値を生み出すのかまで評価・理解し、未来の価値を顧客へフィードバックすることが求められています。さらに、その未来価値を確実に実現するためには、顧客だけでなく、その先にある市場や社会のニーズを的確に捉え、関係者と連携しながら新たな価値創出につなげていくことも、材料メーカーとして極めて重要な役割になっています。
例えば、AIサーバをはじめとする先端技術は今後いかに変化していくのか、各分野の開発者たちと情報交換をしながら、変化の先を見通した技術提案を顧客に提供できるよう、当社自体が進化していかなければなりません。これらに対応するため、現在、本社および事業部のマーケティング、リサーチ機能の強化を急いでいます。従来のように顧客に焦点を絞った営業および研究開発機能だけでなく、顧客の先にいる最終ユーザーや社会インフラまで視野を広げ、未来がどこへ向かっているのかを俯瞰し、捉える力および機能を社内で養っていこうという考えです。人材のイメージとしては、先端技術を深く理解しながら、全体を俯瞰する視点からビジネススキームを構築でき、ミクロとマクロの問題意識と共に分析力を持つ人材を育てたいと考えています。
オーガニック成長を軸に、将来への継続的な投資を実行
この1年間に当社が実践してきた活動により、「2040年長期ビジョン」の実現可能性は高まったと認識しています。当初は、2040年の世界を高い解像度で描けていたわけではなく、掲げた営業利益2,500億円という高い目標についても、その実現に向けた具体的なイメージを持てていたわけではありませんでした。しかし、想定以上の市場拡大が現実となり、オーガニック成長に一定の目処が立ちつつあることから、インオーガニック成長も含め、目標の早期達成が現実のものとして見えてきました。
ただし、市場環境に身を委ねているだけでは、チャンスを掴むことはできません。今の成長機会を確実に取り込むには、急拡大する需要に対応して、状況分析をしっかり行った上で、取るべきリスクをテイクし、積極的な投資による供給能力の強化を実現していくことが重要です。
当社はこれまでの3年間、先端材料のグローバル生産体制の構築、資源事業のレアメタルへの転換、製錬リサイクル事業の高付加価値化などを目的に約2,700億円の投資を実行してきましたが、これからの3年間も、さらなる生産能力の増強やサプライチェーンの強化、将来に向けた研究開発投資などを積極的に実行すべく、年間1,000億円以上の投資を継続していく方針を固めました。特に、先に述べたインジウムリン(InP)基板は一層の需要拡大が想定され、どのように投資を継続し、どこまで供給能力を高めるのかが最も重要なテーマの一つとなります。
さらに、長期ビジョンに描いたありたい姿、「高収益体質を実現する半導体材料/情報通信材料のグローバルリーダー」となるには、インオーガニック成長への挑戦が欠かせないものとなります。将来の新規分野開拓のために、新たな技術の取得や自社技術の周辺領域でのM&Aも含め、可能性を幅広く探っていきたいと考えています。
事業ポートフォリオ改革の要は経営資源のアロケーション
当社は、上場準備開始前から事業ポートフォリオの見直しを進め、先端材料を扱う半導体・情報通信材料セグメントからなるフォーカス事業を成長戦略のコアとし、資源・製錬リサイクルを担う基礎材料セグメントからなるベース事業を、原材料の安定供給を通じてフォーカス事業を支える基盤として位置づけています。ベース事業は、市況の影響を大きく受けるボラティリティの高いビジネスであるものの、地政学リスクの高まりが継続する中、事業としての価値はむしろ以前より高まっています。そのため、市場環境の変化に応じてタイミングを見計らいながら、ポートフォリオの最適化を判断していくことが重要だと考えています。
現在までのところ、事業ポートフォリオ改革は概ね順調に進んでいますが、当社が目指すところは単なる事業の入れ替えではなく、限られた経営資源を、資本効率が高く長期的な価値創出につながる領域へ重点的に振り向けることです。
例えば、当社は2028年を目途に、りん青銅事業からの撤退を決定しました。りん青銅は、コネクタ端子などに使われる精密材料で、当社が日本鉱業の時代から長年にわたり高いシェアを保有してきた製品です。しかし、すでに市場は成熟しており、今後の成長は見込めないとの判断に至りました。倉見工場の収益性を考えた場合、りん青銅の生産効率化に投資するよりも、チタン銅をはじめとしたより高付加価値な製品に設備を最大限に振り向ける方が、将来の成長性、資本効率をいずれも高めることができます。当然ながら、事業撤退を惜しむ声は社外だけでなく、社内からもありましたが、製品のシェアや過去の歴史に捉われて、将来の収益力低下を見過ごすことはできません。人材、設備、資金は有限の資源です。制約された条件の中で、常に企業価値向上に資する最善の選択を行うことが経営の役割だと私は認識しています。
「JX金属グループフィロソフィー」の認知・浸透から実践の段階へ
JX金属グループフィロソフィー(2025年9月公表)
上場を機に、創業以来120年の歴史の中で培われ、脈々と受け継がれてきた当社グループの考え方や姿勢、精神を改めて言語化し、当社グループのあらゆる活動の拠り所とすべく、2025年9月にOur Purpose「価値をつくる。未来をつくる。~技術で、情熱で、創造力で。~」を中核とするJX金属グループフィロソフィーを策定、公表しました。このフィロソフィーは私たちの長期ビジョン達成の推進力となるものであり、私は社長として、自らの最も重要な役割はフィロソフィーの認知と浸透を図り、実践につなげることだと考えています。
2025年度は、まず、従業員の反応を知りたいと思い、菅原副社長(当時)とともに、本社や主要拠点において6カ月間に50回超の対話の機会を設けました。約900名の従業員との直接のコミュニケーション、意見交換の場では、Our Purpose、Our Wayのキーワードを踏まえ、このフィロソフィーが、当社にとって、過去・現在・未来に通底するものであることを歴史や現在の振り返りを通して確認し、議論を交わしました。また、マネジメント層に対しては「私たちには技術はある。しかし、情熱と創造力がまだ足りない」と繰り返し話をしてきました。2040年長期ビジョンを成し遂げるには、当たり前のことを当たり前にやっていただけでは、その実現は到底不可能であり、自分たちの持つ技術、情熱、創造力のすべてをもって、未来を切り拓く価値を生み出していく力が必要です。
また、そのためには、困難な課題から逃げずに向き合い、胆力を持って決断をすることが求められます。まずは、経営側の思いを直接伝えたという段階に過ぎませんが、実際に、従業員やマネジメント層の反応を見ると、内容に違和感や抵抗感を持った人はほとんどいないようでした。また、Our PurposeやOur Wayを平易な言葉で整理したこともあり、高い認知を得ることができていると感じました。
しかし、本題はこれからです。認知されることと、実践されることはまったくの別次元であり、経営陣も含め、フィロソフィーが具体的な行動や意思決定に落とし込まれているかというと、まだ道半ばです。
私はJX金属グループを、役職者も新入社員も仕事の前では平等で、仕事に真剣に向き合った上で考えたことは誰でも遠慮なく議論し、共に価値創造に挑戦する、そんな組織にしていきたいと思っています。2026年度からは、フィロソフィー実践の課題、「なぜ実践できないか」というところまで踏み込んだ議論を行い、具体的な行動に結びつける、真の意味での定着を図っていきます。
新マテリアリティのもと、一人ひとりが価値を生み出す企業へ
JX金属グループマテリアリティ(2026年4月公表)
フィロソフィーの策定を進める中で、「当社が取り組むべき経営課題とは何か」を改めて整理しました。その過程で、フィロソフィーを実現するための具体的な取り組みテーマこそがマテリアリティであると捉え、マテリアリティについても見直しを行いました。
検討にあたっては、既存のマテリアリティをベースとしつつも、「SX(サステナビリティ・トランスフォーメーション)」や「国際統合報告フレームワーク」の統合思考の考え方を取り入れ、当社グループが社会にどのような価値を提供し、その価値創出をどのような経営基盤が支えているのかをより明確に示すことを重視しました。その結果、従来の「ESG」という枠組みを再整理し、「事業を通じた価値の提供」「環境・社会課題への対応」「持続的成長を支える基盤の強靭化」という3つのグループと7つのマテリアリティで構成する改定版を策定し、取締役会の決議後、2026年4月に公表しました。
今回の見直しで私がとりわけ重視したのが、「事業を通じた価値の提供」という考え方です。半導体・情報通信材料を中心としたフォーカス事業と、それを支えるベース事業の双方を通じて社会に価値を提供することこそが当社の存在意義です。つまり、当社の最重要課題は「事業を通じた価値の提供」であり、その実践をしていく主体は人的資本です。いくら優れた理念や戦略を掲げたとしても、それを実行する一人ひとりの従業員が真の目的を理解し、行動しなければ意味がありません。その点では、マテリアリティの実践を担う人材を育てることこそが、当社の持続的な成長を支えると考えています。
先にも述べたように、当社が目指す人材像は、技術力やビジネススキルを磨くだけでなく、社会や市場全体を俯瞰する視点を持って、あらゆる機会から価値を創出していける人材です。現在、取り組み中のコア人材育成においては、大きなポテンシャルを持つ人材が現れ始めました。当社のすべての人材が自ら挑戦できる場や機会を提供し、経験を通じてさらなる成長を促していきたいと考えています。
また、育成だけでなく、人材評価の仕組みも私たちのフィロソフィーに沿ったものである必要があります。「事業を通じた価値の提供」における価値とは、革新的な技術開発や大型のビジネス案件だけではなく、例えば、職場の働き方や業務フローなどを新たな視点から見直し、仕事を革新する行動も組織において重要な価値創造となります。価値というものを正しく認識し、挑戦をしている人が適正に評価される組織に改革していきたいと思います。
資本構成の最適化により、企業価値のさらなる向上へ
当社グループは、従来から認識していた二つの大きな課題を解消する経営判断を行いました。一つは、2026年5月に決定したENEOSホールディングス株式会社(以下、ENEOS HD)所有の当社普通株式の一部取得を目的とした公開買付けです。ENEOS HDの所有比率引き下げは、資本政策の柔軟性確保の観点からも当社の重要な経営課題として、IPO直後から社内で議論されてきました。また、ENEOS HDが株式を市場に放出した場合の影響についても検討を進めてきました。今般、その実行の機会を得る中で、既存株主、特に中長期保有株主への影響をいかに最小限に抑えるかを改めて検討した結果、自己株式の公開買付けによる資金を転換社債型新株予約権付社債で調達する方式を採用することを決定しました。
意思決定の二つ目は、2026年6月の東邦チタニウム株式会社の完全子会社化です。東邦チタニウムは、チタン事業とその中間原料や関連技術を活用した触媒事業、化学品事業の会社で、当社は東邦チタニウム株式の50.38%を保有し、資本・事業両面で連携してきました。東邦チタニウムとの関係についても、さまざまな選択肢を視野に議論を行ってきましたが、事業上のシナジーと運営上のリスクを総合的に勘案し、完全子会社化した上で一部事業を分社化するという結論に至りました。両社の経営資源を結集することで、AIデータセンター向け需要の拡大に伴い伸長する高純度チタン事業のさらなる強化、スポンジチタン事業の強化によるサプライチェーンの安定化、さらには、コア技術の融合による新規事業創出機会の拡大等のシナジーを期待しています。
いずれも最適な資本構成の在り方を追求した結果であり、当社グループは、これからも企業価値向上と持続的成長に資する資本政策を推進していく所存です。
すべてのステークホルダーとのエンゲージメントを成長の源に
短期・中期的には当社グループを取り巻く市況は追い風にあり、市場環境を背景として事業ポートフォリオ改革も遅れることなく着実に進展しています。しかし、2040年長期ビジョンを実現するためには、グループのフィロソフィーを軸に、全従業員が視野を広げ、挑戦を続ける組織への変革が欠かせないと感じています。
2024年のタツタ電線株式会社に続く東邦チタニウムの完全子会社化には、事業シナジーの創出に加え、優れた人材の獲得による人的資本の強化や、グループ全体での人材アロケーションの最適化を実現するという狙いもありました。まずは、内部ステークホルダーであるグループ従業員のエンゲージメントを高め、一人ひとりが主体的に挑戦できる環境を整えることで、長期ビジョンの達成に向けた大きな力へと変えていきたいと考えています。
また、株式公開を機に、株主・投資家をはじめとする外部ステークホルダーの皆様との新たなエンゲージメントを築くことができました。今後も積極的に皆様との対話の機会を設け、世界を広く見つめ、顧客のさらに先を読み、新たな価値を創造し続けることにより、当社グループのありたい姿の実現を強い心で先導してまいります。今後の当社グループのさらなる挑戦と成長に、ぜひご期待ください。
