2026年度 社外取締役座談会
上場後1年を振り返って―ガバナンスの進化と次なる成長への視点―
上場から1年を経て、JX金属グループのガバナンスはどのように変化したのか。
5名の社外取締役が、意思決定のスピード向上や取締役会の実効性向上、事業ポートフォリオ改革の進展を振り返りながら、さらなる企業価値向上に向けた課題と展望について語り合う、座談会を実施しました。
- A
- 社外取締役(監査等委員)
- 二宮 雅也
- B
- 社外取締役(監査等委員)
- 川口 里香
- C
- 社外取締役
- 所 千晴
- D
- 社外取締役(監査等委員)
- 佐久間 総一郎
- E
- 社外取締役
- 伊藤 元重
上場後1年のガバナンスをどう評価するか
- 所:
- 当社はIPOに向けて長い時間をかけながらガバナンス体制を強化してきました。上場前には運営面や情報提供面で課題もありましたが、上場後は一つひとつ着実に改善され、安定したガバナンス体制が構築されてきたと感じています。特に技術を基盤とする企業として重要な技術情報や各事業拠点の状況について、社外取締役にも理解しやすい形で共有されるようになり、議論の質が大きく向上しました。
- 伊藤:
- 当社が事業展開する半導体向けの先端材料分野は特に変化のスピードが非常に速く、常に機動的な判断が求められます。そのため、所取締役がお話しされた情報共有は非常に有用でした。結果として、適切な投資判断や経営の意思決定を重ね、着実に成果につなげてきたと評価しています。
- 佐久間:
-
私は経営とは結果だと考えており、その点でこの1年、執行側は非常に優れた成果を示してきました。上場前に比べ意思決定のスピードも高まり、ガバナンスは機能していると感じます。
一方で、当社は上場によってグループの「親会社」となりました。今後はグループ全体を見渡した経営やグループ会社のマネジメント高度化など、新たな課題にも取り組んでいく必要があります。 - 二宮:
- 佐久間取締役がご指摘の通り、グループを率いる立場になったことにより、上場後に若干の修正や適正化すべき点も見えてきましたが、重要なのはそれらを曖昧にせず、取締役会で徹底的に議論しながら対応を進めていることです。今後どうしていくのかについて議論を尽くした上で意思決定する、という文化は大変評価しています。
- 川口:
- 私は、この1年は「攻めのガバナンス」が本格的に動き始めた年であったと評価しています。制度や体制づくりの段階から一歩進み、自分たちで運用・実装しながら改善していく姿勢が執行側も含めて強まっています。今般のコーポレートガバナンス・コード改訂を機に、改めて投資家との対話なども意識しつつ、さらなる改善に向けどうあるべきかについても議論を深めていくことができるといいと思っているところです。
環境変化への対応と意思決定のスピード
- 所:
- スピード感という点でいえば、フォーカス事業は従来から変化の速い領域と捉えられていましたが、ベース事業の領域でも、資源循環や経済安全保障といった事業環境変化が加速しています。フォーカス・ベースに関係なく、会社全体としてスピード感が求められる時代になっていると感じます。
- 二宮:
- 事業ポートフォリオ変革が重要な経営テーマである中で、構造改革はスピード感を持って進められました。選択と集中という経営姿勢は明確であったと思います。
- 佐久間:
- 意思決定はスピード感を持って行われていますが、決議ぎりぎりの段階で議論されるのではなく、決議段階のかなり前から十分な情報共有と議論が行われていることは、当社の非常に良い点だと感じています。社外取締役としても経緯を理解した上で判断できるため、迅速かつ質の高い意思決定につながっています。
取締役会の実効性向上に向けた取り組み
- 二宮:
-
当社で取締役会の実効性評価が始まったのは2024年度からでしたが、そこで抽出された課題については着実に改善が進んでいます。
例えば、2025年度はスケジュールをかなり早く決定いただいたため、我々としては非常に取り組みやすくなりました。また、事前説明会の充実や資料共有のルール化に加えて、国内外の事業拠点への現地訪問や、社外取締役からの要請に応える形で技術研修なども実施されました。 - 佐久間:
-
特に技術研修は非常に有意義でした。当社は最先端技術を強みとする企業であり、投資の意思決定・判断を行う上でも技術への理解が欠かせません。
一方で私のように、当該技術に対するバックグラウンドのない社外取締役もいます。半導体の基礎から未公表の最先端技術まで学べる機会が設けられたことは大きな助けになりました。 - 川口:
- 社外取締役が参加しない社内の会議体、例えば人材会議や技術会議などの資料が共有されるようになったことも改善点であったと思います。これまでの提供される情報は少し範囲が狭く感じていましたが、資料共有を通じて会社全体への理解が深まりました。疑問点があれば追加説明も受けられるため、社外取締役としてより実効的な意見を述べられる環境になっています。
- 伊藤:
-
私たちは取締役として、技術面の変化に加えて、企業リスクや市場環境など変化に対する視点を持たなければなりません。上場直後は、どうしても足元の経営課題への対応が多くなりましたが、今後は中長期の社会環境や市場動向を踏まえた議論を増やしていきたいという感覚はあります。
例えば、年間を通じて取締役会で議論・意見交換するようなテーマを設定するなどすると、おのずと中長期的な話も入ってくるのではないでしょうか。人的資本や投資家との対話といったテーマも、腰を据えてすり合わせていく必要があると考えています。
- 二宮:
-
テーマによってメンバーも違ってくるとは思いますが、重要なテーマを取締役会から離れた形で自由に意見交換するというのはあってもいいと思いますし、実際にDX戦略や人事戦略などは、テーマを別にして論議する機会は今でもあります。
また、指名・報酬諮問委員会では、「役員体制のあるべき姿」に向けた要件整理が1つの大きなテーマでした。具体的には社外取締役・独立役員・女性取締役の構成などについて、時間をかけながらでも実現したい方向性について話し合いました。さらに、新任取締役候補者プールの形成や業績連動報酬の指標などを論議しています。 - 伊藤:
- 経営戦略や事業環境を踏まえスキルマトリックスについてはまだ詳しく議論できていませんが、役員に必要な資質や、全体のポートフォリオの中でどのような人材が必要かという議論は、まず執行側の話も聞きながら、進めていく必要があると考えています。
- 二宮:
- 取締役会の将来的なあり方を見据えた取締役候補者の情報の共有もなされています。指名報酬諮問委員会として取締役の指名プロセスに適切に関与するためには、候補者との接点をより増やすことを通じ、候補者を「知る機会」の充実を図ることも重要になってくると思います。
企業の原点を見つめ直したグループフィロソフィー
- 川口:
- 2025年度の議論の中で最も印象深かったのはOur PurposeとOur Wayを中心とするグループフィロソフィーの策定です。一度で決めるのではなく、何度も取締役会で議論を重ね、多くの意見を反映しながら完成させた過程が強く印象に残っています。
- 二宮:
- 私もフィロソフィーと行動規範の策定にあたっての論議は極めて重要であったと感じています。私自身は経団連で企業行動憲章の改定作業にあたった観点から意見を述べ、特に人権や経営責任の明確化について意見を申し上げました。結果として会社の歴史や存在意義を丁寧に整理した内容になっていると思います。社員の皆さんが迷った時・困った時に立ち返る拠り所となり、文化として定着していくことを期待しています。
- 佐久間:
- 今回のフィロソフィー策定にあたっては、取締役会での議論を経て、執行側の案に何度か修正が入りました。そのため、フィロソフィーはトップダウンとボトムアップの双方から作り上げられた成果だと言えます。その過程で感じたのは、当社が持つ技術力の価値をもっと発信すべきだということです。フィロソフィー策定は改めて自社の価値や存在意義を見つめ直す機会にもなりました。
- 伊藤:
- 企業理念については、言葉を決めることがゴールではありません。それを企業や社員の皆さんがどのように消化し、行動へと落とし込んでいくかが問われます。この点については、今後も議論が続くのだろうと思っています。
企業価値向上に向けた変革の加速
- 伊藤:
- 2025年度の取締役会の議論で個人的にもっとも印象的だったのは、変化の速い事業環境の中で、どこに投資し、どこと協業していくのかという判断をする際の議論です。個々の案件だけを見るのではなく、その先に何があるのか・どこを目指すのかという視点が重要となる中、その点に関心を持ち議論に参加しました。もともとある当社の強みを再認識・再発信しながら、事業環境の変化も見据え、将来の成長領域をどのように拡大していくかについて今後も議論を深めていくことは、当社の企業価値向上にとってとても重要なことだと思っています。
- 所:
- 私は、投資家や社会から信頼されるためにも、しっかりしたサプライチェーンを前後で確保しているというのが当社の強みになるべきと考えています。そのため、新たな事業領域を検討する際もサプライチェーン全体の持続可能性や資源循環の観点を重視しています。レアメタルのほか、リサイクルは今後ますます重要になるテーマであり、その点はしっかり議論させていただくようにしています。
- 佐久間:
- 私が考える当社の最大の強みは、グローバルな顧客との直接的な関係性を持ちながら最先端の材料を供給できる点です。この顧客との関係性は他社からみれば非常に重要な目に見えないアセットです。自らの強いポジションを活かしきることで、フォーカス事業の収益力をさらに高めていかなければいけない局面にあると考えています。
- 二宮:
-
当社は、上場をしてからも、市場・投資家からの評価に応えるため、「安定して成長できる体制」への転換を目指し、事業ポートフォリオの入れ替えを行ってきました。この1年間で、設備投資やM&A・出資に加えて、株主構成の適正化に向けた自己株TOBの実施や自己株式の一部消却にも踏み切っています。ここまではかなりのスピード感を持って対応してきていますが、ここからの資本政策は将来の成長戦略にどうつなげていくかという観点から、少し時間をかけてやらないといけないと考えています。
自己株式の消却もしかり、株主還元方針の経緯を見ても、当社は非常に真面目な会社であることがわかります。株主還元方針については1年目から工夫をしながら策定・発信をしてきたのですが、投資家からは逆に分かりにくいとの評価もあったため、今年になって方針変更をしています。いずれにしても誠実に投資家の期待に応える動きであったと考えています。
人的資本とサステナビリティへの期待
- 川口:
- 私は当社にとって最も重要な非財務資本は人的資本だと考えています。優秀な人材を育成し、定着してもらうことは、競争力維持だけでなく技術情報の流出防止などリスクマネジメントにもつながります。現在当社で検討している独自のエンゲージメント指標にも離職率や継続雇用率などの数値が取り入れられているので、今後も注目していきたいと思っています。
- 佐久間:
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当社の成長の原動力は「強い現場」です。それを支えているのは、現場の技術人材であり、特に優秀なエンジニアを継続的に確保できるかが重要になります。これは地方に製造拠点を持つ企業に共通の悩みですが、そこにどこまで投資するかが課題だと思います。
同時に、本社では、外部リソースを使いこなしながら、会社を成長に導いていくことが求められています。その源泉となるのは、当社の現場や事業をよく知る人材であり、その確保のための工夫をしていく必要があると思います。
- 伊藤:
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人的資本については、やはり人材確保が難しくなる中で、成長戦略の中に人的資本をどのように位置づけるかが重要であり、常に見直しながら議論していく必要があると思っています。
また、当社が社会にどのような価値を提供しているのかという切り口でサステナビリティや事業を評価する必要があると考えています。定量化は難しいテーマですが、企業のブランド価値・バリューを意識してしっかり発信してほしいと思っています。 - 所:
- 環境分野ではサーキュラーエコノミーへの移行が大きなテーマです。当社は資源循環分野で大きな強みを持っていますが、その価値をどう定量的に示すかが課題です。世界的にも評価指標が発展途上にある中で、当社が先導的な発信を行うことを期待しています。
- 二宮:
- フィロソフィーの策定やマテリアリティ見直しを通じて、当社は自らの存在意義を再確認しました。その浸透のためにはトップ自らが繰り返し対話を重ね、挑戦を促す文化を育てることが重要です。従業員の成長こそが会社の成長であり、その文化を定着させることが今後の鍵になると考えています。
